81.雪だるまヤロルク
ヤロルクが息も絶え絶えエルド達の元に来たのは最後の大雪と予想される日の昼頃だった。さすがに雪の降る日に依頼を受ける気も起きなかったのでみんな食堂でそれぞれの時間を過ごしていた。
玄関で何か物音がするからとジェイロットが扉を開けると全身雪に覆われたヤロルクがそこに立っていた。
「ど、どちら様ですか…」
ジェイロットは果敢にも雪ダルマに変貌したヤロルクに声をかけた。ヤロルクは凍えて声が上手く出せないでいた。
いつまでも玄関から戻ってこないジェイロットを心配してエルドは顔を覗かせると弟が雪だるまに話しかけているなかなかファンシーな光景を目の当たりにした。誰かのいたずらで雪だるまが置いてあるのかと思い玄関に向かい、雪だるまとなり凍えているヤロルクであると気が付いた。
エルドは慌ててヤロルクの体に着いた雪を払いのけ中に入れる。食堂にいた面々でヤロルクを温める作業に入った。
1時間もするとようやくヤロルクの体も温まり普通に会話できるようになる。
「は~…助かりました…」
マリーからもらったスープを飲みつつヤロルクは一息つく。
「なんでこんな雪の中うちの前にいたの?そもそも中央都に行ったんじゃなかったっけ?なにかあった?」
矢継ぎ早にエルドが聞く。
「順を追って話しますと、大教会はモイラをどうしても連れて来いとのことです。オルファの指示でほかのみんなはアフテディ教会に戻りましたが、オルファは調べ物があると言って大教会に残ってます。
なんでそんなことをするのかわからなかったので自分はこうやって戻って来たんですけど、ちょうど大雪の日にぶつかってしまってなんとか家までつきましたが凍えてました。」
ヤロルクは苦笑しながら言う。
「もう、無理しないでよ。」
モイラは腰に手を当ててヤロルクに言う。その様子は無茶をする兄を心配しているように見える。
「あはは、さすがに急がないとって思ったからね。」
ヤロルクは頭をかきながら言う。
「大教会は具体的にどういう理由でモイラを連れて来いって言っているの?」
マリーが聞いてきた。ヤロルクは大教会であったことを話す。
「神官総長の命令ね。ヤロルクが直接聞いてたわけじゃないからどういう理由かわからないのが面倒だ。」
「オルファが力をつけるって言うのも気になるわね。どんだけ鍛えてもエルドにかなわないと思うんだけど。」
エルドもマリーも首をひねる。
「大教会の精鋭とか連れてくるかもね。はぁ…もう少し簡単に行くと思ったのに…」
モイラはため息をつきながら言う。
「神官総長が疑っているってことなのは予想できるが…さて…」
エルドは腕を組み天を仰ぐ。
「しょうがない。やってみるか。」
エルドは立ち上がって亜空間から布を取り出し床に敷く。
「なにするの?」
広がる布の邪魔にならないように椅子をどかしながらマリーが聞く。
「神官総長はモイラが雪崩で分断されたのを幸いと今回の事を起こしたと考えてるんでしょ。まあ実際そうだけど。」
靴を脱ぎ布の上に膝立ちになりながらエルドが言う。
「だから、それより前に僕らが婚約状態であったとすれば、諦めがつくんじゃないかな。」
「まあそれはそうだろうけど。そもそもあなたとモイラ、まだ婚約してないじゃない。偽装するにもまず婚約しないと。」
実は現在においてエルドはモイラと婚約をしていない。それはこのやり方で事前に婚約をしているとできないと言われたときにどうしようもなくなるための処置だ。モイラにはいつでも婚約できるんだから落ち着いたときにと言ってずっとごまかしていた。
「表面的な偽装は出来るけど、王家にまで話を持ってかれると偽装は簡単に見破れるからね。だから王家でも見破られない偽装をできる可能性をこれから行うしかない。えっと…確かこれでいいはず…」
そう言ってエルドは両手を組み祈りのポーズをとる。そして地に両手をつき額を床に押し付けた。
「あら…」
モイラはエルドの動きに感心していた。
数分間エルドが動きを止めていると天から光が降り注いできた。エルドが顔を上げて立ち上がり、マリーとモイラに手招きして敷いた布の上にあげさせる。そして3人が光に包まれてその場から消えた。
「き、消えた…」
「あの光、もしかして…」
ジェイロットは以前受けた光を思い出す。光に包まれた先にいた人物にいろいろ驚かされる話を聞いたことに懐かしさすら覚えてしまう。




