8.記録魔法『レコード』
「いやはや、さすがは氷炎。強いのなんのって。」
エルドはヨーレインとデリーに連れられて支部長室に来ていた。ソファーに座るや否や、ヨーレインは先ほど行われたマクラインとの戦闘の感想を述べ始めている。
「いやいや、彼だってなかなか強いですよ。」
「エルド兄さん、それ本気で言ってる?」
エルドの言葉にデリーは苦笑する。あれだけ一方的な戦闘だったのに、相手が強いとはよく言えたものだと思わざるを得ない。
「まま、この話は置いておきまして、エルドさんは冒険者に復帰するということでいいんですね?」
ヨーレインは自分から話を振っておきながら切り替える。
「えぇ、諸事情で故郷から出なくてはいけなくなりまして。しばらくはこっちで冒険者をしようかと。」
「ははぁ。二つ名持ちの元冒険者を追い出すとは、なかなか肝の座った人もいるんですね。」
「はは、まあそうかもしれませんね。」
具体的に何があったのかなど、今日初めて会った相手に言えるわけもなく、エルドは苦笑いするしかなかった。
「それでは一度冒険者のランクを確認させていただいてもいいですか?」
ヨーレインは水晶玉を取り出した。エルドもうなづき、首に下げているネックレスを外しヨーレインに手渡す。
「ほう、珍しい石をお使いですね。」
手渡されたネックレスに付いた青い石を見ながら言う。
「えぇ。実家を拠点にしているとき見つけた導き石と呼ばれるものだそうです。」
ヨーレインは導き石を水晶に触れさせる。しばらくヨーレインは何かを読むように水晶を見ている。
「なるほど、3年前で依頼記録が更新されていませんね。知っているとは思いますが、1年以上依頼をこなしていない場合、ランクが降格されます。
3年前はCランクでしたがEランクからの再開になります。」
「しょうがないですよね。手続きお願いします。」
「わかりました。レコードはこのままこちらの石を使いますか?」
「そうだね。それにギルドレコードを再登録してもらえるかな。」
「承りました。少々お預かりします。」
そう言ってヨーレインは席を立ち部屋を出ていく。
「Eランクから再開だと大変だね。」
ヨーレインが部屋を出ていくのを確認してデリーが言う。
「ん~…僕がCランクになれたのも仲間のおかげなところがあるから、別にEランクからでも問題ないかな~。
こなす依頼にもよるけど、1~2か月でDランクには上がれるだろうし。」
冒険者のランクはFから始まり、E、D、C、B、A、Sと上がっていく。Dランクであれば依頼内容をえり好みしても一般家庭と同等の稼ぎとなっている。
「お待たせしました。」
ヨーレインが支部長室に戻ってきた。
「それではエルドさん。こちらにギルドレコードを再登録しました。エルドさんであれば半年もかからずCランクに戻ることも可能でしょう。」
「ははは、僕一人じゃ難しいかもね。」
そう言って導き石を受け取り首にかけなおす。
この石に刻まれたのは記録魔法『レコード』である。
レコードに記されたのは個人情報から所属組織、はたまた契約記録など様々なものを記録する。
ただし、記録は本人の肉体に宿る。本人が記憶したものを導き石などの媒体を通して読めるようにするだけである。ゆえにレコードが刻まれた媒体を奪っても本人の同意なく記録を読むことはできないのである。
また、自分で情報を見るときは媒体に触れレコードの魔法を唱えると脳内に表示される。
「それではさっそく依頼を見ていきますか?」
ヨーレインは手をたたき笑顔で問いかける。
「いや、この町に来たばかりだし、とりあえず宿を探さないと…」
「あぁ、住むところに関しては僕にあてがあるから大丈夫だよ。でも今日来たばかりで疲れただろうから早速行こうか。」
そう言ってデリーは立ち上がる。エルドもそれに同意し立ち上がった。
「それじゃあ、明日からお世話になります。」
そう言ってエルドはヨーレインに手を差し出す。ヨーレインも手を出し握手を交わした。
「それで、宿のあてって?」
「まあまあ、慌てない慌てない。とりあえず馬車に乗って。」
エルドはデリーに連れられ停車場に来ていた。
「なんだ、ここから遠いのか?」
「いや、馬車で5分くらいかな。」
「おいおい、それくらいなら歩けるでしょ。」
「案内したらそのまま帰るから馬車で行った方が楽なんだよ。」
デリーは笑いながら言う。
「まあ、いいところだから楽しみにしててよ。」
二人は馬車に乗り、目的地へと走り出す。