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77.Sランク

「え?なにこれ?」


 エルドは支部ギルドの受付でソフィアが持ってきた報奨金に目を剥く。そこには大きく膨らんだ4つの布袋が置いてある。


「はい。今回の依頼の報奨金です。間違いないと思いますけど…」


 そう言ってソフィアは水晶タブレットに表示されている依頼を確認する。


「え?こんな多かったっけ?0一つ多くない?」


 エルドも確認してみると記憶にあった数字より0が一つ多い。


「えっと…今回の依頼でエルドさんとマリーさんはSランクに昇格したため報奨金が跳ね上がりますね。」


 ソフィアは依頼書を読み進めて確認する。


「は?Sランク?なんで?」


 エルドはあわてて自分が契約した時の依頼を呼び出し確認する。読み進めてみると最後に依頼完了の後Sランクに昇格すると明記されていた。仮契約の時には見なかった一文だ。


「や、やられた…」


 エルドは額に手を当てうずくまる。仮契約は依頼の時まで時間がある時に行われ、何かがあった時に破棄しやすいものであるが、もう一つの利点が契約の変更を容易にできるという点だ。まさか国の依頼でそんなことをするとはつゆほども疑わなかったため本契約の時に確認を怠ったエルドのミスだ。


「…これって税金引いてこれなんだよね?」


「そうですね。引いてあります。」


 エルドはうなだれるがあきらめて布袋を受け取り亜空間にしまう。


「よかったですねエルド兄さま?」


 隣でやり取りを見ていたジェイロットは不思議そうな表情でエルドを見上げる。普通なら昇格したうえ報酬も上がったのだから喜びそうなのにエルドはそうは見えなかったから首を傾げる。


「うん、まぁ…そうだね…」


 エルドはため息をつきながら言う。


「気にしてもしょうがない。それじゃあジェイロットの依頼を始めますか。」


 エルドは気を取り直し、本日来た目的のジェイロットの依頼を見繕うことにした。ジェイロットは腕輪を水晶タブレットにかざす。


「さて、3~4個まとめてやるのが効率良いかな。この時期だと討伐より採取の方が楽だけど…」


 空中に浮かんでいる依頼書を2人で眺める。


「それじゃあ薬草摘みと、薪割りなんかはどうですか?後は雪かきかな。」


 ジェイロットが割のよさそうな依頼を指さす。


「一日で回るならそんなものか。先に薬草を摘んだ方がいいかもね。」


 ジェイロットは頷き3つの依頼を受注した。


 それから森に入り薬草を50本、積もった雪の中から掘り当て、雪かきをし、薪を割る。前日に熱魔法を改めて教わったため体が冷えることは無かったが、今度は逆に体が熱くなり薪を割り終わったころには熱くなった体を冷やすために雪に飛び込んでいた。


「調節がまだまだだね。長い間雪に突っ込んでると風邪ひくよ。」


 割った薪を縛りながらエルドが言う。


「はい…疲れた…」


 ジェイロットは雪の中から這い出て再び熱魔法を発動させる。


「それじゃあ完了の報告に行こうか。歩ける?抱っこしようか?」


 エルドはジェイロットの方についている雪を払いながら聞く。


「もう子供じゃないんですから大丈夫ですって。」


「あははそうか。」


 2人は支部ギルドに依頼完了の報告をして帰路に着いた。


 家に帰ると台所からいい匂いが漂ってくる。台所に顔を出すとマリーが不機嫌に料理をし、モイラがテーブルに突っ伏していた。


「ただいま。」


 声をかけるとマリーは振り向くことなく返事をしてモイラは突っ伏したまま顔をエルドに向ける。


「エルド…あなたってどれだけ強いの?なんであんなのに耐えられるの?」


 モイラの言っていることがよくわからず首をひねる。モイラは、先にエルドに迫った方がよかったとか、そもそもこの2人相手に体がもつのとか言っているが何のことかわからなかったためエルドは着替えに自室に行くことにした。


 モイラが言っていたことが何だったのか知るのはその夜の事だ。ジェイロットが眠った後支部ギルドの出来事の報告も兼ね3人で話をして、それを聞いたときは腹を抱えて笑ってしまった。



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