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76.モイラの策略

 ルーファスは一時トーライトの下で修業という名の下働きをすることになった。たまたまトーライトの勤め先で人手が足りなくなっていたのでちょうどよかったとトーライトは喜んでいた。


「ジェイロットはどうする?また何日かこっちにいる?」


 エルドはトーライト達を見送った後、玄関でジェイロットに尋ねた。


「はい。実は僕、冒険者ギルドに登録したんです。ただ依頼を受けるには成人している人と一緒じゃないといけないのでエルド兄さまが一緒に受けてくれればと思っているのですが…」


 ジェイロットは気恥ずかしそうに言う。


「そうか。それじゃあ明日から一緒に依頼を受けようか。今回の護衛依頼の報酬も明日取りに来てくれって言われてたからちょうどいいや。」


 エルドはジェイロットの頭を撫でながら言う。


「えへへ。…エルド兄さま、聖女さま…じゃないモイラ義姉さまの件、本当にいいのですか?確かにこの国は一夫多妻、多夫一妻が認められてますけどエルド兄さまが背負う事じゃ…」


「とりあえずの一時しのぎだよ。婚姻じゃなく婚約だから問題が収まれば解消できるし。モイラも別に僕の事を好きってわけじゃないだろうし。そもそも年もな~。あまりに離れているとモイラもかわいそうだし。」


 エルドは首をひねりながら言う。


「なるほど。でも問題の解決ってどうすれば?」


「それは領主にお願いしている。半年もすればなんとかなると思うんだけど…」


 エルドは帰り際に領主に会いに行った話をした。


「なるほど。それでうまくいきますか?」


「前例がないからね。どうなるか。ただ教会は保守派が多いから前例のないことは決断しないしうまくいくと思うんだ。」


 内容としては問題なさそうだが、色々と運頼みのところが多いなとジェイロットは思った。しかしそんな状況でもエルドは幸運をつかみとっているのもジェイロットは理解しているため本当にうまくいくだろうと確信していた。


「さ、今日は雪かきもしてたし疲れただろ。明日も雪道を歩くことになるだろうから今日はゆっくり休もう。もう少し熱魔法のやり方を教えてあげるよ。」


 そう言ってエルドはジェイロットを促し家に入っていった。




 翌日、エルドはジェイロットと共にギルドに向かう。マリーはモイラと残りモイラのための部屋を模様替えしていた。


「普段は一人ずつ寝てるの?」


 モイラは前日に買い込んだ壁紙を魔剣で押し付けながらマリーに聞く。


「自分の部屋はあるけどエルドの部屋で一緒に寝てるかな。さすがにジェイロット達が泊まっている時は別だけどね。」


 マリーも反対側を引っ張り、張り付けている。


「それじゃあ私だけの時は遠慮しないでくださいね。私は防音魔法も使えるので。」


 モイラは笑いながら言う。それを聞いてマリーはため息をついた。


「そんなに気にしないでいいわよ。」


「あら、魔力の高い人はそれを抑えているため三大欲求が高いじゃないですか。私達の中で一番高いマリーが抑えられているですか?」


 モイラは目を細め、いたずらっぽく笑う。普段見せない艶やかな笑みにマリーはたじろいだ。モイラはじりじりと迫ってくる。


「ねえ、マリー。教会では不純異性交遊は禁止されてるの。だけど…」


 マリーはベッドに追い立てられ座ってしまう。


「女性同士では結構恋愛沙汰があるんだ。」


 モイラはマリーと目線を合わせ、首に手をまわす。


「え、ちょっと…」


「将を射んとする者はまず馬を射よ、なんてのもあるけど、エルドよりあなたの方が私的には好みかもしれない…」


 そのままモイラに唇を奪われベッドに押し倒されてしまう。体をよじり逃げようとするがモイラに押さえつけられ動けない。


「安心して、男性経験はないけど、女性経験はそれなりにあるから。」


 モイラは微笑んでもう一度キスをする。マリーは抵抗やむなく受け入れてしまう。


 エルドが帰ってくるのは夕方。



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