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70.氷虎討伐

 翌日は少しばかし雪が降っていた。


「山の天気は変わりやすいって言うけど、行くのか?」


 エルドは空を見上げながら言う。


「ここを拠点に氷虎を探すのが目的だ。吹雪いてくればここに戻ればいい。」


 オルファが嫌そうに答えた。なるほどねとエルドは納得する。ならマリーに魔力感知で探してもらうのがよさそうだと提案すれば、ここからは自分たちの力でやらないといけないとのこと。エルドとマリーは後ろでついて行くしかできないようだ。


 ヤロルクを先頭に氷虎を探す一行。エルドとマリーは少し離れてついて行っている。エルドは昨夜オルファと話したことをマリーに伝えた。


「へぇ。モイラには優しかったり婚約のための試練を受けたりと意外な面が結構あるのね。モイラは好いてなさそうなのが気の毒に見えるけど。」


「そうだね。そもそも何で2人は婚約することになるんだ?オルファの魔力量が低いから子供も望めないだろうし。」


 エルドは首をひねる。


「教会としての箔みたいな?ほら、愛の女神を信仰しているところってアフテディ教会しかないみたいだし。モイラを独身のままにしておくと他のところに連れてかれちゃうとか。」


「ああ、それだと話しは繋がるか。モイラが嫌そうなのだけがかわいそうだが。」


 その時唸り声が聞こえてきた。2人が声のした方を向くと青白い体毛の虎がこちらを見ていた。探していた氷虎だ。身の丈は成人男性と同じくらいだからまだ子供だろう。エルド達と同じく唸り声のした方をみた教会の一行は各々武器を構えた。あのサイズでも討伐するのかとエルドとマリーは邪魔にならないように下がる。


 モイラが呪文を唱え何かの補助魔法を発動させた。それを合図にヤロルクとオルファが先陣を切って氷虎に斬りかかる。ヤロルクは剣でオルファは槍でそれぞれ氷虎に向かった。他の修道士は呪文を唱え魔法攻撃で援護している。モイラは補助魔法をかけ続け、前衛の二人が傷を負うと回復魔法をかけていた。


 連携はそれなりにとれているように見える。気になるのは天候だ。戦闘を始めてから雪の降り方が強くなっているのを感じる。


 1時間ほどかけて氷虎を討伐できた。前衛の二人は肩で息をして地面に座り込んでしまう。


「これでいいのか?」


 エルドが駆け寄り氷虎を見て言う。モイラは2人に体力回復用の回復魔法をかけているようだ。


「あ、ああ…サイズに指定は無い…これで十分だろ…」


 オルファが息も絶え絶えに答えた。


「で、このまま持って帰るの?それとも毛皮をはぐの?」


「毛皮をはぎます…だからまず拠点に戻って…」


 ヤロルクが答えようとすると遠吠えが聞こえてきた。声の方へ顔を向けると、討伐した氷虎と比較にならない大きさの氷虎がこちらを見ている。


「おいおい…なんだあの大きさ…あれがデリーの言っていた氷虎か?」


 エルドは亜空間を広げ魔剣テンペラを取り出した。


「あれは僕らが対応してもいいんだよね?」


 振り返らずに聞く。


「は、はい…あの大きさじゃ私達じゃ対応できないから…お願いします。」


 モイラが震えながら言う。


「私達がひきつけるからその間に拠点に戻って!早く!!」


 マリーは言うが早いか巨大氷虎にとびかかる。拳を眉間に打ち付けたが巨大氷虎はびくともしてない。


「か、硬い…」


 エルドは地面にテンペラの氷の剣身を刺し、周囲の雪を操り氷虎を捕えようとする。巨大氷虎は雪が覆いかぶさろうとしたとき大きく後ろに跳躍して逃げた。


「今のうちだ!!」


 エルドの言葉に一行は討伐した氷虎を引っ張り来た道を戻っていく。乱暴な引っ張り方だから毛皮に傷がつきそうだなとエルドは考えてしまった。


 巨大氷虎は着地した位置から吠えた。その声に反応して巨大氷虎の周りの雪が持ち上がりエルド達に迫る。エルドはマリーの前に立ち、再び剣身を地面に刺し迫った雪を熱で溶かし巻き込まれるのを防いだ。


「なんか、雪の降り方がどんどんひどくなってきてないか?」


 エルドの言葉にマリーも同じことを思っていた。巨大氷虎が唸るたび、吠えるたびに雪がひどくなっている。


「氷虎の声は雪を呼ぶって言われてるみたいだから。」


 いないと思っていたモイラの声に2人は振り向いた。


「みんなと戻らなかったのか。」


 エルドはあきれたように言う。


「私は後方支援型ですから少し離れたところで助力させてもらいます。」


 モイラは笑顔で答える。


「私がもう一度殴りにかかるから援護して。」


 そう言うとマリーは再び巨大氷虎に向かって跳躍した。それを見たモイラが呪文を唱えマリーに支援魔法をかける。


 マリーは巨大氷虎の眉間を殴りつける。さっきと違い巨大氷虎はマリーの拳に吹き飛ばされさらに奥へ追いやられる。


「すごいな。どれだけ魔力込めたんだ?」


 エルドが感心しながら駆け寄る。


「え…いや…さっきの3倍くらい込めたけどここまで…」


 マリーは自分の拳を見ながら言う。最初に殴った感覚から3倍込めても一瞬ひるむ程度だろうと予想していたが予想に反して巨大氷虎は大きく吹き飛ばせた。


「これが聖女の支援魔法…」


 モイラを見ると笑いながらゆっくり近づいてきていた。


「なるほどね。これなら何とかなりそうだ。」


 エルドはテンペラの剣身を青い炎に変える。


「寒さは何とかなるけど視界が悪くなってきてるからさっさと終わらせよう。」


 エルドの言う通り雪の降り方がどんどんひどくなってきている。青白い毛並みの氷虎が相手だと認識しづらくなる。


 巨大氷虎の黄色い目がこちらを見た。そして咆哮。周囲の雪がエルド達を襲う。


 エルドはテンペラを振り、迫ってくる雪を溶かす。マリーは巨大氷虎に駆け寄り足をかけ転ばせる。倒れたところにエルドの炎の一撃。しかし炎に耐性があるのか毛が焦げることすらなかった。


「嘘だろ。氷虎だから炎には弱いと思ってたのに。」


 巨大氷虎が起き上がりエルドに爪を振り下ろす。エルドはそれをよけ、腹の下からもう一度斬りかかる。腹部には効いているようだ。巨大氷虎はエルドの一撃を受け雪の上を転がる。


 巨大氷虎が雪の上を転げ回っている時、マリーは頭上から巨大氷虎の背骨を目掛けて殴りつけた。拳はうまいこと背骨に当たり、ゴキリと骨が折れる音が聞こえた。


 巨大氷虎は転げまわり唸る。そのたび雪がひどくなり視界が悪くなってくる。


 エルドが炎の剣身を伸ばし巨大氷虎を切断しようとした時、ひときわ大きく巨大氷虎は吠えた。また雪を操るのかとエルドは後ろにいるモイラをかばうように構えるが特に変化はなかった。もう雪を操るだけの気力もなくなったのかと安心していると地響きが起こり始める。


「な、なんだこの音?」


 周囲を見渡しても変化はなさそうだ。


「エルド!上!!」


 マリーの言葉に山の上を見上げると雪が迫ってきているのがわかる。偶然なのか狙ったのか、巨大氷虎は雪崩を発生させた。さすがにあの量を溶かすのは魔力が枯渇する可能性もある。エルドはモイラに向き返り、逃げようと促したが、巨大氷虎の咆哮で足元の雪が浮き、エルドとモイラを転ばせる。


 マリーは2人に駆け寄ろうとするが、同じく巨大氷虎の咆哮で足元の雪を操作されて近づけないでいた。そして想定よりもはやい速度で雪崩が迫っており、3人はそのまま雪崩に飲み込まれてしまった。


 雪崩が収まり周囲に静寂が訪れると巨大氷虎は体を引きずり山の方へ帰っていった。


 巨大氷虎がいなくなった後、マリーは雪の中から這い出てきた。


「げほ…さすがに死ぬかと思った…2人は…」


 あたりを見渡し魔力感知を行う。周囲にエルドとモイラの魔力は感じられない。しかし遠くの方で感じる。弱くはなってない。まだ生きている。


 そのままその魔力を頼りに2人を探そうと思ったが視界と足元が悪いため雪がやむのを待つしかないと判断し、拠点の洞窟へ戻るしかなかった。


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