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69.イバート山脈

 それからは天候に恵まれ外での布教活動も難なく行えた。一行はデリーに見送られながら次の村へ馬車を走らせる。道中も特に問題はなくイバート山脈のふもとの村にたどり着くことが出来た。


 そして準備を整え村の宿に一泊しイバート山脈へと臨むことになる。


「さ、ここからは歩きだ。気合を入れていこう。」


 ヤロルクの声に修道士たちは気合を入れている。


「山脈登るって言うからてっぺんまで登るのかと思ってたら三合目くらいのところに向かうとは。気が抜けるね。」


 エルドは大あくびをしながらつぶやく。ずっと山頂へ向かうのかと思って戦々恐々としていたが前日の打ち合わせの時に氷虎は三合目あたりで目撃されていると村長に教えられて気が抜けていた。


「確かにね。教会の人たちも山頂とまでは思ってなかったようだけど昨日の話を聞いてから気合の入り方が違うみたい。」


 マリーが言う。


「へぇ~。」


「エルドみたいに気が抜けたんじゃなくて、早く終わらせるって意味で気合が入ったみたいよ。」


 まだあくびをしているエルドを見ながら言う。


「あ、なるほど。ここを終わらせればみんな帰れるものね。」


 エルドが体を伸ばしているとヤロルクが出発を告げた。


 一行が雪山を進み始めて数時間。道中数体のウサギの魔物の雪ウサギと遭遇した。先頭を歩いていたマリーがどれも一撃で倒している。エルドは後で解体しようと亜空間に放り込んだ。


 日も暮れてきたころ、目的地の洞窟に到着した。その洞窟の中には小屋が立ててありそこで泊まれるようになっている。


 他の人が小屋に入り休憩を始めた時、エルドは亜空間から雪ウサギを取り出し解体を始める。マリーが上手いこと仕留めているため解体しても無駄になる部分がなかった。


「マリー、毛皮剥けたよ。」


 雪ウサギの毛皮を亜空間に放り込みながら声をかける。マリーは包丁を持って雪ウサギの肉を捌き始める。ある程度捌き串にさして直火で焼き始める。あとは塩コショウで味付けして完成だった。


「あら、まさか雪山でバーベキューなんて思いもしませんでした。」


 マリーが焼き加減を見ているときモイラが声をかけてきた。


「寒いときは暖かいものが食べたくなるからね。兎肉が手に入ってよかった。さ、どんどん焼いて行くからみんな食べて行って!」


 マリーの声に休んでいた修道士たちが寄ってくる。各々串をとり食べ始めるとこれまで食べたことのない味に感動する。


「うわこれ何でこんなにうまいの!?ただ焼いてるだけじゃなくて?」


 ヤロルクが驚きながら聞く。


「ただ焼いてるだけだよ。味付けは塩コショウだし。味が足りないならたれも作ろうか?」


 マリーは亜空間から調味料を取り出す。なぜかオレシアも一緒に出てくる。モイラはオレシアを手に取る。


「マリーはオレシアが好きなの?」


「え?うん。ちいさいころ空腹で倒れてオレシアを分けてもらって助かったことがあって、それからかな。」


 マリーは遠い目で答えた。


「へぇ…これもらっていい?」


 モイラは顔の横にオレシアを掲げる。


「いいよ。まだたくさんあるから。」


 そう言ってまだまだ亜空間からオレシアを取り出す。


「あ…ありがとう…」


 さすがに数十単位のオレシアが出てくるのは予想外でモイラは言葉がなかった。


 食事を終えると早く休もうとみんな小屋に入る。部屋割りでエルドはオルファと同室になってしまった。話したりするのも面倒だからさっさと寝てしまおうと眼鏡をはずし横になろうとする。ふとオルファを見ると手帳を取り出し何かを書いていた。日記か今回の旅の記録でもしているのかなと見ているとオルファに声をかけられた。


「なんだ?」


「あ、いや…なに書いているのかなって…」


「旅の記録だ。お前には関係ない。それよりその眼でこっちを見るな。気色悪い。」


 そう言われてエルドはオルファに背を向け横になる。


「…氷虎の毛皮なんて何に使うんだ?」


「さあな。私にもわからん。頼まれただけだ。」


 デリーに話していた時オルファがため息ついていたから乗り気ではないとは思っていたがどこかからの依頼だったのかと納得する。


「頼んできたやつ、なんでギルドに頼まないんだろうな。そっちの方が確実だろうに。」


 その問いにオルファは答えない。しばらく待っても何も言わなそうなので眠ろうとした。


「モイラと婚約するための試験にもなっているからだろうな。」


 目をつぶった時突然答えられエルドは困惑する。


「あ、そうなんだ。その試験を出したのは教会の上の人?」


 しかし今度は完全に答えてはくれなかった。エルドはあきらめて眠りについた。



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