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68.奇行蛮行

 翌日は予想に反して快晴。一行は雪の降らないうちに早々に町を出た。次の目的地はこの領地最大の街。領主の住まう領主所在地だ。エルドは時間があればデリーや伯父伯母に挨拶しようと考えていた。


 一行は半日かけて到着した。領主所在地のこの街はファニアール領領主所在地と規模が同じくらい。エルドは久しぶりに訪れた場所にワクワクしている。


「少し曇ってきましたね。どうしましょうか。」


 御者台から降りながらヤロルクがオルファに聞いている。


「ここには数日滞在予定だからな。今日は延期しておこう。モイラ、ここの教会に挨拶に行くぞ。」


 オルファは空を仰ぎながら言う。モイラは馬車から出ようとした時、魔剣を引っかけてその反動で足を滑らせ尻もちをついた。


「ち、何やってんだ。」


 そう言ってオルファはモイラに手を差し出す。その手をモイラは不思議そうに見た。


「え…あ…」


「いつまでそこに座ってるつもりだ?」


 そう言われてモイラはオルファの手を取り立ち上がる。


「あ、ありがとうございます。」


 オルファは返事をせずに先に行ってしまった。


「あ、おいてかないでください。それじゃあみんなは先に宿に行っててください。」


 モイラは慌ててオルファの後を追った。


「意外と優しい?」


 エルドは馬車の屋根から飛び降りながら言う。


「モイラに対してはそうかもしれませんね。」


 ヤロルクはヤレヤレと首を振る。


「他の修道士が同じことをしたら怒鳴りつけてると思いますよ。」


 それを聞いて他の修道士も頷いている。




 翌日、翌々日と雪が降り続いた。もともと数日滞在の予定で、外で布教活動を行わなくてもやることはいろいろとあった。そのうちの一つが領主の面談だ。


 領主家に足を運んだ時、依頼主のモイラやオルファが話している時に昔から務めている使用人がエルドに気付き、話を聞いて走ってきたライナス領領主の伯父にこれまでのいきさつを根掘り葉掘り聞かれたりと少々トラブルにあった。


 エルドは護衛中だからとモイラを前に出そうとするが、伯父の聖女より甥の方が大事だとの発言でオルファが舌打ちしたのはさすがに申し訳なさに肩身が狭かった。伯父の奇行を止めたのはいとこのデリーでエルドに迫る父親を一喝して落ち着かせた。しかしその時に言ったのが、母さんに言いつけるよってのはどうなんだろうかとエルドは苦笑している。


「申し訳ございません聖女様。父はエルド兄さんに会うのが久しぶりだったものであのような蛮行を行ってしまいました。」


 父親に代わりデリーが面談することになった。


「いえ、事前に聞いてはいたので多少は驚きましたが気にしないでください。」


 モイラも苦笑するしかない。オルファは苛立たしげに腕を組んでいる。


「一か月前のパーティーの時もお会いしましたよね。確かデリーさんでしたっけ?」


「覚えていていただき光栄です。改めましてデリー・ライナスと申します。」


 デリーはオルファに手を差し出した。オルファは舌打ちをして手を出し二人は握手する。オルファが舌打ちをしたときモイラがため息をついたのをエルドは聞き逃さなかった。


「この街を出たら次はどちらに向かうのですか?」


「ここの次はイバート山脈のふもとの村ですね。その後はイバート山脈に登ろうかと。」


 それを聞いてデリーは眉を顰める。


「イバート山脈ですか…今年は雪が多いためか雪ウサギや氷虎がおおく出ていると報告を受けています。できればあまり登らない方が…」


 雪ウサギも氷虎も魔物である。そして、氷虎は今回の最大の目的でもあった。


「本当は登らないのがいいのですがどうしても氷虎の毛皮を手に入れなければならなくて。」


 モイラは恥ずかしそうに頬に手を当てる。


「それならギルドに依頼を出せばいいじゃないですか。エルド兄さんだったら10体くらい簡単に討伐してきますよ。」


 無茶言うなと言いたくなったが、マリーを連れてけば行けそうだなと思ってしまった。


「自分たちで討伐しないといけないものですから。」


 モイラはため息をつきながら言う。オルファも短いながらため息をついていた。


「なるほど。少々危険だとは思いますが気を付けるようにしてください。今年は大きな氷虎が目撃されていますから。」


 デリーは心配そうに3人を見た。


「はい。ありがとうございます。」


 モイラはにこやかに返事をしていた。



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