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67.雪の足止め

 翌日は馬車を走らせ次の町へ向かう。エルドは馬車の上に、マリーは馬車の中に入り警護をしている。今日御者台で手綱を握っているのはヤロルクだった。エルドは屋根に寝転がり流れる雲を見ていた。


「エルドさん、寝転がってて寒くないんですか?」


 御者台からヤロルクが声をかけてくる。


「熱魔法で周囲の温度調整してるから平気。むしろ上着脱いでてもいいくらい。」


「それは見ている方が寒いのでやめてください。」


 ヤロルクは苦笑交じりに言う。馬車の中ではマリーが熱魔法を放出しているのだろう。屋根の部分が少し暖かい。


 一口に熱魔法といっても発生させる方法はいくつかある。エルドは風と水系統の複合熱魔法で周囲の温度を変化させる。マリーは火系統の熱魔法で自分の体を温めて周囲の温度を変化させている。同じ魔法でも系統が異なればやり方も変わってくるものが結構存在している。ちなみに御者台には魔石式のストーブが置いてありさほど寒く無いらしい。もちろん馬車内にも設置してるが経費削減したいならとマリーは自分をストーブ代わりに差し出した。


「エルドさんもマリーさんも熱魔法が使えるのは羨ましい。熱魔法は難しい部類ですから。」


「ヤロルクは魔法は全く使えないの?」


「まったくってことは無いですよ。生活するのに必要ないわゆる生活魔法の部類は使えます。火を起こすのも水を出すのも導き石に補充することだってできるぐらいには魔力はあります。」


 サイズにもよるが導き石へ魔力の充填は結構魔力を必要とする。それが出来るなら色が出ないぎりぎりの魔力量という事だろう。


「オルファは出来るの?」


 エルドの問いにヤロルクは唸る。


「生活魔法は使えるようですけど、さすがに補充は無理みたいですね。まあ魔力の補充なんて生活するうえで必要はないですから十分だって言ってますけど。」


 予想通りだとエルドは思う。失礼だとは思ったが前日の布教活動中魔力感知を行ったら町民と合わせても一番低かった。正直最初は魔力がないのかと誤認するほどだ。そりゃコンプレックスも持つだろうなと納得する。


「あ、見えてきましたよ。」


 ヤロルクの声にエルドは体を起こした。




 依頼を始めて一週間。天候にも恵まれて順調だった。しかし本日はあいにくの雪模様。降り方が小降りなら移動だけでもしたかったが吹雪いていた。


「今日は足止めか。」


 エルドは宿の食堂から外を見ながら言う。マリーがカップをもって隣に立ち、一つをエルドに差し出した。


「熱いから気を付けてね。明日も吹雪くかもだって。」


「ありがと。明日もか。なかなか順調に進んでたから面倒だね。」


 エルドは飲み物に口をつける。


「あっま!なにこれ?」


「ホットオレシア。おいしいでしょ。」


 マリーは平然と飲んでいる。


「まあね。色的にオレシア入ってるとは思ったがまんまだったのは予想外だよ。」


 エルドは再び口をつける。くどい甘みが口の中に広がる。オレシアに関してだけはマリーと合わないなといつも思う。せめて酸味が欲しい。


「…あれ、教会のみんなは?」


 依頼を受けた自分達がここにいて護衛対象たちはどこに行ったのかと思いエルドが聞いた。


「明日のために馬車の車輪を雪道用に交換してる。」


 エルドはホットオレシアを飲み干す。


「あま…僕も見に行ってくる。宿内にいるならともかく外にいるなら護衛しとかないとね。」


「ああ、たしかに。モイラに今日は特にいいって言われてたから気が付かなかった。」


 マリーらしくないなと思いつつエルドは外に出て馬車置き場に向かった。そこではヤロルクが車輪の留め具を外している姿があった。作業がしやすいようにかモイラが魔法で浮かせて目線の高さに留め具が来るように調整している。他の修道士は隅で次の街の情報を確認しているようだ。オルファは壁に寄りかかって腕を組みながら見ている。


「あらエルド。どうしました?」


 モイラは魔剣を手にエルドを見た。


「いや、みんなここにいるって聞いて。一応護衛だから側にいないとと思ったからね。何か手伝う?」


「こんな吹雪いている日に襲いに来るような人もいないでしょう。」


 モイラは笑いながら言う。


「手伝いも特には。これで最後ですから。」


 ヤロルクは車輪を取り外し雪道用車輪を取り付けた。留め具を締め付け、外れないのを確認する。


「よしおっけ。モイラ降ろしていいよ。」


 ヤロルクの言葉にモイラはゆっくりと馬車を降ろす。


「ヤロルクお疲れさま。」


 モイラが近づき癒しの魔法をかけている。


「これくらいで魔法なんかかけなくても。」


「あら、疲れた時はいつもかけてあげてたじゃない。遠慮しなくてもいいんだから。」


「だけど…」


 ヤロルクはオルファをちらりと見た。オルファは舌打ちをして馬車置き場から出て行ってしまった。


「はぁ…」


 ヤロルクはため息をつく。


「気にしないで。」


 モイラはヤロルクの背中を叩きながら言った。エルドはここに来たことを後悔していた。



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