63.聖女と再会
雪もやみよく晴れた日に久しぶりにギルドに向かい、昼頃依頼を終え次の依頼でもと思った矢先、予報が外れ雪が降り始めた。エルドとマリーは仕方なく依頼を受けるのをやめ昼食をとっていた。
夜は居酒屋にもなるそこは普段はあまり利用しない。外に行けば同じ値段でもっと味のいい店がいくつかあるためだ。こういう悪天候の日くらいしか利用していなかった。
しかし今回はそれが幸いした。二人が食事をしている時声をかけられた。
「お久しぶりです。エルド、マリー。」
二人が声のした方に顔を向けると聖女モイラがそこにいた。パーティーの時とは違い修道服だ。モイラの後ろに男性が一人と少し離れたところに同じような姿の人が数名いる。
「モイラさ…いえ、モイラでいいんだったね。久しぶり。よければ座れば?」
エルドが促す。
「この野郎。聖女様になんて口の利き方だ!」
モイラの後ろにいた男性に突然恫喝される。エルドは目を丸くし、モイラは男性をいさめる。
「オルファ、私が許可を出しているのです。それに彼らも同じ二つ名持ち。対等なのですから許可を出してなくても問題ないですよ。」
「しかしモイラ、あなたはより格の高い『聖女』ですよ。ぽっと出の二つ名などとは格が違います。」
二つ名にも格があり、魔法文字での字数が少ないほど、さらに属性名や色が入っているほど格が高いとされている。マリーは三文字、エルドとモイラは二文字であるが、属性名が二つ入っているエルドが一番格が上となる。しかしこれは一般的には浸透していない。そのため襲名された聖女の方が上だと思うのも無理はない。
「ごめんなさい。こちらはオルファ。アフデディ教会の神官長で私のパートナーです。」
「パートナー?」
あまり聞きなれない紹介にマリーが首を傾げて聞く。
「ええ。今回の巡礼が済んだら私たち婚約することになってるんです。」
頬に手を当てて恥ずかしそうにモイラが言う。その表情が少し曇っているのをマリーは気づいた。
「へぇ。教会の人間って結婚とかしないのかと思ってましたよ。」
エルドがコップに入ったスープを飲みながら言う。
「他の教会は知りませんけど、愛の女神を祀る教会の人間が愛を知らず結婚もしないというのはおかしな話じゃないですか。愛の女神は結婚の女神も兼任していることが多いですし。」
なるほどとエルドが頷く。
「とりあえず座ってよ。ここに来たってことは依頼でしょ?」
エルドは再び座るように促す。モイラは近くにいた仲間に声をかけ彼らは他のテーブルに着いた。モイラとオルファはエルドとマリーのテーブルに着く。
「それでは、前にお話ししたように依頼内容は護衛。イバート山脈も行きますが、最初はこちらの領地でアフテディ教会の布教を行いますのでそれにも同行をお願いします。」
座るなりモイラが話し始める。
「布教活動が主目的か。まあいいけど。イバート山脈は最後に?」
「ええ。こちらのルートで行きたいと思っています。」
オルフェが地図を広げ、モイラが記されたルートを指しながら言う。
「無駄なく巡れるようになってるね。最後がイバート山脈のふもとの村。確かにこれなら天候に問題がなければ2週間くらいで回れそう。」
マリーが地図を見ながら言う。それにはエルドも同意だった。しかし今年は雪の多い当たり年。倍の日数でも回り切れるか怪しいところだ。
「今日みたいな天気の日でも布教はするのか?」
エルドが外を見ながら言う。
「そうですね。移動はこれくらいでもできますけど、外での布教は少し難しいかもしれません。その場合、やはり期間は伸びると思います。」
モイラは困った表情で言う。
「まさかこんなに雪が積もっているとは思いませんでした。」
「今年は当たり年らしいからね。しょうがないさ。」
エルドが言うとオルファが舌打ちをした。
「オルファ!」
モイラがたしなめる。
「失礼。確かに予算は問題ないが、予定外の事が起きるとどうしても…」
オルファは素直に謝る。短気なのか神経質なのかわからないが、あまりかかわりたくないなとエルドは思った。
「出発はいつにする?雪でも問題ないなら明日でもこちらは問題なけど。」
エルドはマリーを見る。マリーも頷く。
「この町でも布教活動はしますから昼事出発になるでしょうか。明日は晴れる予報ですし。ギルドの手続きがこれからあるので契約は明日という事になりそうです。」
「じゃあ、それでいいかな。一か月以上待ったからこっちの準備は出来てるんだ。」
エルドが笑いながら言う。
「それならよかったです。それでは明日からよろしくお願いします。」
モイラは頭を下げた。オルファは少々嫌そうな表情で頷くだけだった。
「ねえ、モイラはあのオルファって人と婚約するの納得してるのかな?」
家に帰り用意しておいた荷物を確認している時、マリーに声をかけられた。
「ん?どうして?」
「この布教の旅が終わった時に婚約するって恥ずかしがって言った時、何か寂しそうというかいやそうに見えたから…」
「さてね。納得してようがしてまいが何とも出来ないからね。」
エルドが首をひねりながら言う。
「まあ、そうなんだけど…ただいいのかなって…」
「気になるんなら聞いてみればいいんじゃない。少なくとも2週間は一緒にいるんだから聞く機会もあるでしょ。」
「う~ん…そういうプライバシーに入る質問はエルドの方が得意だし…」
「女性の心情に入り込めと?さすがに無理だよ。しかも婚約とか僕自身トラウマ物なのに。」
エルドは自身の甘えでプロポーズを引き延ばしてたのを思い出して乾いた笑いを出す。
「ふふ、そうだよね。機会が出来たら聞いてみるよ。」
「そんなに気になるんだ?」
「うん…何かね…」
エルドが腕を組みながら唸る。
「僕的には他の人に眼鏡をかけた人が多い方が気になったけどね。」
昼間に会った時に別のテーブルに着いた面々を思い出しながら言う。6人ほどいたが5人が眼鏡をかけていた。ちゃんと見たわけではないが、その5人は瞳に色が出ているのをエルドは見ていた。
「ちょっと気になるんだよね。あのオルファってのは黒髪黒目だからか眼鏡もかけてないし制服だと思ったけど他の人が付けている被り物もなかったし。あ、被り物に関してはモイラも被ってないか。じゃあ階級で違うとかかな?」
「機会があれば聞いてみれば?」
マリーが笑いながら言う。
「そうだね。そうしてみようか。」
エルドも笑い、確認の終わった荷物を亜空間に投げ込んだ。




