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62.導き石とオレシア

 パーティーからおよそ一か月が経過した。エルドは異母弟ジェイロットに頼んで購入の手配をしていた大きな導き石を箱から取り出す。エルドの頭部ほどの大きさのあるそれは透明できれいな球体だった。


「お~届いた届いた。もっとかかると思ってたけど良かった。」


 導き石を持って地下へと足を運ぶ。そしてぎょっとした。階段を降りたところに大樽が数十個置いてあった。それだけの数おいておけるこの場所もすごいが、これを置いたであろうマリーにも驚く。この中には彼女が自ら作ったオレシアジュースが入っている。今は熟成期間とかで寒さが一定になるこの場所においてあった。


「また増えてる。どれだけ買い込んだんだ?」


 近くにあった樽を叩きながらつぶやく。材料のオレシアはパーティーの翌日にアルが持ってきた国王バルザの手紙に、前日のわびのために中央都在住中は好きに買い物をしていいと王家の身分証明書を渡され王家名義で購入したもの。しかもマリーは数年間の定期購入まで手続きしていた。


 エルドの持っている大きな導き石もその時購入したものだ。もともと導き石はファニアール領にあるダンジョンでしか取れないもので、石ではなく魔物の死骸である。小さいものはダンジョン内に転がっているが、エルドが注文した大きさの物は10年に一度出るかでないかの物だ。魔物を討伐すれば簡単に手に入りそうなものだが、そのサイズまで大きくなった魔物はエルドでも苦戦するレベルの強さだ。今回は寿命が尽きた魔物の死骸を手に入れられたようだと同封されていたジェイロットの手紙に書いてあった。


 エルドは大樽の間を抜け、目的の場所へ向かう。そこにも大きな導き石がおいてあるが所々ひびが入っている。


「さて、こいつを交換すればもう過剰に魔力を吸わないから庭で薬草が育てられるね。まあ、もう雪が積もって耕すことが出来ないから春先まで待たないといけないけど。」


 ぶつくさと独り言を言いながら導き石を入れ替える。導き石は魔力をためる性質を持つ。そしてそのためた魔力を放出させるのが今置いてある台だ。この台は魔道具の一種で、これのおかげで多くの魔道具を起動させることが出来るようになっている。


 エルドは古い導き石を新しいものにたたきつけ砕いた。砕けたかけらは新しい導き石に吸収され、内包された魔力を移行させることが出来た。


「これで良し。もともとあった期間を考えれば30年くらいは持つのかな。それまでに新しいのを用意しておけばいいか。」


 そんなことをつぶやきながら地上へ戻る。台所に向かうとマリーが真剣な顔で出来上がったばかりのオレシアジュースのテイスティングをしている。朝からオレシアを剥いてるのか食べてるのかわからなかったがまだ作り続ける気なのかとため息が出る。しかしオレシアの事に関しては一言でも文句を言うと鬼となり迫られるのをわかっているため特に何も言えない。エルドは剝かれた実を口に入れる。強い酸味が口内を刺激する。


「ん…すっぱ…やっぱ実だけで食べるものじゃないな。」


 そう言って箱に入っているオレシアを皮ごと口にした。オレシアは何とも不思議な実で皮に強い甘みがあり、実に酸味がある。普通はきれいに洗って皮ごと食べるものだ。たまに酸味がいいと実だけを食べるものもいるが少数だ。


 味はオレンジ、色はシアン。だからオレシアと呼ばれるようになったらしい。オレンジより強い甘みがあるため、冬の定番果実といえばこの国ではオレシアになる。


「よし、この味だ。」


 マリーが納得いったように頷いている。


「帰ってきてからずっと作ってるけど納得いくのが出来た?」


「うん。パーティーの時飲んだジュースがおいしかったから再現してたんだ。やっとできた。」


 あれも再現したのかとエルドの頬が引きつる。帰ってきてすぐにパーティーで食べた料理を再現したのはまあいつもの事だと驚きながらも割り切ったが、ジュース一つにここまで熱意を上げられるのはもはや狂気だ。


「地下の樽、あれは失敗作?」


「再現という意味じゃ失敗ね。ただオレシアジュースというなら市販のものよりおいしいから成功作よ。かなりできてるから売りに出してもいいかも。」


 そう言いながらマリーは出来たジュースを飲む。


「まあ、この雪じゃ売りに行くのもしんどいだろうし、夏の時期に売れば結構儲かるんじゃない。」


「あ、いいかも。暑い日に酸味のあるオレシアジュースは格別だものね。」


 そう言ってマリーは片づけを始めた。


「急いでればうちまでくるよね。」


 エルドは窓の外を見ながら言う。


「なにが?」


「聖女の依頼。もう一か月になるから早ければそろそろかなって。」


 ここ数日は雪が降っているためエルドもマリーもギルドに行っていない。もしかするとギルドには連絡が入っているかもしれないが、雪道を歩くのはなかなかしんどいものがある。しかも今年は当たり年。一か月の約半分が雪の日だった。



「もうそんなになる?たしかに急ぎだったらうちまでくるよね。ギルドからは遠くないし。でもこんな雪で本当に山に登るのかな?」


 嫌そうなのがマリーの声からわかる。熱魔法が使える自分たちだけなら特に問題は無いが、いったい何人引き連れてくるのかわからない以上心配になってくる。


「まあ、気長に待つしかないよ。」


 そう言ってマリーの手伝いを始める。



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