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60.聖女の功績

「次の事なんだが…」


 エルドは座り直し姿勢を正した。


「聖女を襲名したのは聞いたけど、そもそも何をして聖女を襲名することになったんだ?」


 ずっと疑問に思っていた事だった。何か大きなことをすれば領主をやっていた時にでも耳に入っていただろう。しかし何の噂を聞くこともなく襲名式の招集がかかった。


「ああ、やっぱり気になってたか。それは襲名式の時も説明されてないんだが、まあお前には話しておいた方がいいかもな。」


 確かアルも何をして襲名したか知らないと言っていたはず。今知っているのは国王バルザから聞いたのかと考える。自分たちが二つ名の認定を受けた時はその理由が話されたが説明してないのはそれなりに秘匿すべき内容なのかと考えた。


「彼女が持っている杖があるだろ?」


「あ、ああ。」


 パーティー会場で顔を合わせた時からずっと持っている杖。その長さはエルドの身長ほどの長さがあるため、背の低い彼女が持つと杖の先端が頭の上に来ている。


「これは魔剣だ。銘はヒーリング。回復と結界魔法が付与された魔剣だ。」


 エルドとマリーは目をむいた。それも当然だった。


「この国には魔剣が2本しかないと聞いていたけど、まだあったんだな。」


「ああ。俺も今回聞かされて初めて知った。しかももともと城の地下にあった祭壇に祀られていたらしい。」


 国防のために国民に知らされないことなど星の数ほどあるだろうが、魔剣のようなものを中央都の地下に置いておくのは正気の沙汰とは思えなかった。


「それで、地下にあったものが今ここにあるっていう事は聖女…いや、モイラさんは…」


「モイラと呼び捨てにしてください。シスターモイラでもいいですよ。」


 エルドの言葉にモイラが割って入る。


「そ、そうですか。モイラが持ち主として認められたという事か?それが聖女襲名に関係が?」


「そういう事らしい。魔剣を持ってるお前らならわかるだろうが、魔剣は自分の気に入ったやつしか持ち主と認めない。魔力が似通っていないとダメだとか、使える魔法が付与されているものと同じじゃないとダメだとか聞いているが実際のほどはよく知らない。しかし彼女自身、回復魔法も結界魔法も使えるから間違ってはいないのだろう。」


 エルドは魔剣メテオを触ることすらが出来ない。マリーは魔剣テンペラを触ることはできるが魔力を通わせることが出来なかった。たしかに好き嫌いはありそうだと昔、話をしたことを思い出す。


「歴代の聖女は魔剣ヒーリングを扱うことが出来るのが最低条件だ。そして最後はこの魔剣に自分の魔力を譲渡してこの国を守る結界を張らせるのが役割だと。」


「へえ…結界なんか張ってたんだ。国内に魔物や魔獣はそれなりにいるけど…いや、まさかダンジョンってそういうことか…」


 エルドは疑問を口にする。ダンジョンが発生すると周囲の魔物や魔獣はそこに留まる。それがずっと疑問だった。それが結界の効力から逃げるため、魔力がたまったダンジョン内の方が結界の効力が弱いからと考えるなら納得がいく。その証拠かダンジョン内の魔物の方が強いという研究結果もある。


「詳しいことはよくわからないが、そうらしいな。だから逆に北の前線は結界の範囲外だから魔物が攻めてくると。」


「その結界は国中を覆っているのか。先代の聖女が亡くなったのは50年も前なのに魔力が残り続けているのがすごいな。」


「魔剣ヒーリングは常に私の魔力を吸い続けています。おそらく先代もその前も、ずっとそうしてたのでしょう。内包されている魔力はこの国中の人の魔力を合わせても足りないほどに感じます。」


 モイラは優しく魔剣を撫でる。


「つ、常に魔力を吸われるってそんなことされて大丈夫なのですか!?」


 マリーが驚愕の声を出す。自分が魔剣を使うときは能力を使いたいときに魔力を注いでいたため違いに驚いてしまう。もちろんエルドも同じだ。氷で作った剣身で魔力の出力を調整しているため入れる量を抑えているくらいだ。


「ええ。私も髪に色が出てますのでそれなりに魔力は高いですから。」


 そう言って自分の白髪に触れる。


「それにこの子も吸いすぎるのはよくないとわかっているのか結界の維持に必要な分しか吸いませんし。」


 再び魔剣を撫でる。まるで生きているものを撫でているように優しく撫でる。


「なるほどね。地下から出して結界はどうしてるのかと思ったけど、維持し続けてるから魔力が吸われるのか。魔剣によって特性がいろいろ変わってくるもんだな。」


 エルドは腕を組み納得したように言う。


「そうだな。結界は魔物や魔獣を抑えるだけじゃなく、他国から来た人間の悪意を消す作用もあるらしい。だからどうしても表沙汰にはできない。このことは黙っていてくれないか?」


 それを聞いてエルドもマリーも頷く。この国で生まれ生活している以上他国との戦争など起こしたくはない。もちろん過去には何度か他国との戦争を経験しているリュトデリーン王国ではあるが、それも最後は500年以上前の話だ。


「なんかいろいろと国の秘密を話されると囲い込まれている気にさせられるな。」


 エルドは足を組みながら言う。


「父上やライオス兄上、フォニアス兄上はそうしたいみたいだな。魔剣を持っててそれなりに国に貢献していて、現在どの役職にもついていないとなるとお前とマリーしかいないからな。」


 それを聞いてエルドはため息をつく。


「だからってさっきの茶番は無いだろ。あのままお前が割り込んでくるのが遅かったら本当に第一王子の氷像が出来てたよ。」


 それを想像してアルは身震いした。


「よかった。父上が話しかけた時から見ていたけど途中で認識阻害を発動されたからタイミングが取りづらかったんだ。」


「いつ入ろうかと焦ってましたものね。」


 モイラが口に手を当てクスクス笑う。それを見てマリーも笑う。


「学生時代は王家なんかに生まれたくなかったとか、兄弟が8人もいて一番目と三番目が横暴だとか文句言っていたのに変わるものね。」


「いや、それはほら…若気の至りというのかなんというのか…」


 アルは恥ずかしそうに頬をかいていた。



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