6.魔剣 氷
エルドはマクラインの後についてかなり広い広場にやってきた。
「これが訓練場。随分と広いね。」
エルドはあたりを見渡しながら言う。
「えぇ、この町自体新しいのでいろいろと広めに造ることが出来たんです。」
エルドの言葉にヨーレインが答える。
「白線で囲ってあるところは戦闘用スペースで戦闘を始めれば内外からの魔力的、物理的影響を受けなくなります。」
「要は戦闘での流れ弾や、外からの援護射撃が通らないってことか。」
「その通りです。ですので魔法のテストをしたいときとかも使用できます。」
複数あるスペースの中から一つのスペースへマクラインは足を運んだ。
「おら、さっさと用意しな、氷炎!」
エルドはゆっくりと歩いて戦闘スペースに入る。
戦闘スペースに入る時にわずかに空気が変わったのを感じた。白線上に確かに何か魔力的な幕が張られているようだ。
「この中だったらどんだけやろうと外には影響は出ねぇ。たとえお前を虫の息にしようと殺さねぇ限りはここの優秀なスタッフに治療してもらえるから安心しな。」
「そんなに優秀なのか。久しぶりの対人戦だから力加減が出来なかったらどうしようかと悩んでいたところだったからいいこと聞いた。」
エルドを挑発しようと言った言葉だが、エルドの返しにマクラインの方がイラっとさせられる。
「ち、二つ名持ちはそんなに強いのかね。それより、お前が持っているはずの魔剣はどうした?」
「ん?持ってるけど、使っていいのか?」
「あぁ!?魔剣を使ってないお前に勝っても誰も認めねぇよ!さっさと出しやがれ!!」
マクラインの言葉にエルドはしばし考える。
「君が使ってもいいっていうなら使うけど、さっきも言ったように対人戦は久しぶりだから…死にはしないと思うけどしばらく休養とることになっても責任は取らないからな。」
「は、魔剣相手にするんだ。多少の怪我ぐらい折込済みよ。むしろお前から魔剣を奪って、俺が『氷炎』になってやるから安心しな!」
何を安心するのかよくわからないがエルドは了解を得たと納得する。
「わかった。『オープン』」
エルドの言葉に反応し、彼の左側の空間に切れ目が入る。これは亜空間とつながる穴で、中に荷物などを入れることが出来る、冒険者ならだれでも使える空間魔法だ。
発動の呪文は人によって異なるが、一言だけで魔法を発動させるのは魔力が生まれながらに多いものにしかできない芸当である。
エルドは切れ目の中に右腕を突っ込み、ゆっくりと引き抜く。
出てきたのは青白い刀身の剣。銘をテンペラ。エルドが冒険者になってすぐのころ、この領地のとある場所で見つけた魔剣である。
「そ、それが魔剣…」
エルドが出したテンペラの威圧感にマクラインは一歩後ずさる。
「そう、魔剣テンペラ。出すのも久しぶりだからうまく制御できないかもしれないけど、さすがに殺すことはないから安心して。」
エルドがそういい終わるか否か、マクラインはエルドに向かって走り出す。
エルドはそれを見るとテンペラを構え、マクラインを斬る。
マクラインは斬られると予見し、すんでで下がるが、わずかにつけている胸当てを斬られていた。そして、斬られたところが凍り付いているのが見て取れる。
「こ、これが魔剣の力か…」
マクラインは噂で聞いていたため、テンペラの能力は知っているつもりだ。だが実際に目にするのでは思った以上に脅威だと感じる。
マクラインは一度離れ、魔法の詠唱に入る。
「へぇ、攻撃魔法も使えるんだ。そんななりだから肉体強化とかぐらいかと思ってた。」
魔法詠唱中に攻撃をしてはいけないなどという不文律はないが、エルドはマクラインが魔法詠唱を終えるのを待つ。
「呑気に待ってくれてありがとうよ!『ファイアーボール』!!」