55.パーティー
中央都にある文化ホール。そこで聖女襲名パーティーが行われていた。エルドとマリーは呪いの女神の騒動で迷惑かけられたんだから出席しろとアルに無理やり招待状を押し付けられていた。
「本当に何度来ても広いホールだね。」
マリーがエルドのエスコートを受け、慣れないドレスを翻しながら言う。
「もともと城があったころのダンスホールらしいからね。そりゃ広いよ。」
エルドは少し緊張した面持ちで会場入りしていた。
「どうした?何か気がかりなことでも?」
「ほら、こういうパーティーは何回か来たことあるけど、マリーはメイドとして同席してたじゃん。だからこうやってエスコートするのも初めてだし、それに…」
「それに?」
「…ドレス姿のマリーが綺麗だから…」
エルドは顔を赤らめていう。それを聞いてマリーも顔を赤くする。
「バカ!こんな時に何言って…ちょっと飲み物もらってくる。」
そう言ってマリーはエルドから離れて行った。エルドが端によりマリーを待っていると、いつもの軍服姿のアルが声をかけてきた。
「ようエルド。ちゃんと来たな。」
「やあ。衣装も貸してもらって悪いね。」
アルの計らいで中央都在住中の宿屋や今日の衣装を手配してもらっていた。
「気にするな。お前こういうの好きじゃないって言ってただろ。どうせ衣装もレンタルだと思ってたから勝手にしたまでさ。」
アルはそう予想するが実際は数着パーティー用の衣装を持っている。しかしそれを持ち運ぶのも面倒なため、ファニアール領家に置きっぱなしにしておいた。流行が変わらなければジェイロットあたりが使うだろうと考えている。
「エルドお待たせ~。」
マリーが3人分の飲み物を手にやってきた。
「やあマリー。やっぱりそのドレスにあってるね。」
「あら、アルもいたのね。わかってたならもう一つ持ってきたのに。」
そう言ってエルドに飲み物を手渡す。
「え?3つ持ってるのに?」
アルは戸惑いながら聞く。
「2つは私の。オレシアの新作ジュースって聞いたから多めにもらってきちゃった。」
そう言って1つを飲み干す。
「んん。皮だけを絞ったジュースね。酸味が無くてすごく甘い。」
マリーは唇をなめながら言う。
「こういう時にそれははしたないよ。」
エルドは空いたグラスをマリーの手から取り、近くのウェイターのトレイの上に置いた。
「まだ飲みたいならあとでアルに樽ごと用意してもらいなよ。10樽くらい。」
それを聞いてマリーの目が輝いた。
「お、お願いできる?」
少し上目遣いにアルにお願いをするマリー。アルはそれを見て一度目をそらし、わかったと顔を赤らめながら言う。
エルドもオレシアのジュースに口をつける。
「うわ、本当に甘い。これ一杯で満足だ。」
「まったく、いい性格してるよお前ら。」
アルはそう言ってため息をつく。
「それじゃあ俺はまだあいさつしないといけない人がいるから行くわ。あとで聖女様に紹介してやるから最後までいろよ。」
「別に今後会う機会もないだろうに、わざわざ紹介しなくても…」
エルドが呆れ交じりに言う。
「いや、そうでもないかもしれないぞ。」
「え?どういうこと?」
マリーの問いに答えずにアルは行ってしまった。




