5.二つ名
「あ、アニキ!!」
エルドの足元にいる男が情けない声を出しながら言う。
「情けねぇなお前ら。新参いじめはいいが、返り討ちにあってどうすんだ。」
「いやいや、新参いじめもダメでしょ。」
大男の声にエルドは苦笑する。
「まあともかく、その馬鹿どもは解放してくれないか?こっちできっちり教育しておくからよ。」
「新参いじめ自体辞めてほしいけど、まあいいや。」
そう言ってエルドは足をどかし、男どもを解放する。
「この野郎!」
解放された男の一人が起き上がり、エルドに向かって殴りかかろうとするが大男に頭をつかまれる。
「この馬鹿野郎が、力量差ってのがわからねぇのかよ。」
「で、ですが…」
「こいつはこの辺じゃ新参者かもしれないが、お前の何倍も強いだろうよ。」
そう言って大男は文句を言い続ける男を担ぎ上げる。
「すご…」
いくら体のデカい大男でも大の男を簡単に担ぎ上げてしまうその力にエルドは素直に驚嘆する。
「俺はマクライン。お前は?」
「エルドだ。これからここで世話になると思う。」
「そうか…エルド?どこかで聞いたことがある名前だな…」
マクラインが首をひねっているとバタバタと駆け寄る足音が聞こえてくる。
「お、おいおい君たち、ここでの喧嘩は困るよ!」
「エルド兄さん、久しぶりだからって羽目を外しすぎるのはよくないよ。」
デリーが恰幅のいい、だけど気弱そうな男とやってきた。
「すまんな支部長。俺の子分が悪いんだ。今日はこれで失礼するよ。」
「あぁ、マクライン。君の子分はいつも騒ぎを起こす。このままだと君もろとも出禁にしないといけなくなるから教育はきちんとしておくれよ。」
支部長と呼ばれた恰幅のいい男が汗を拭きながら言う。マクラインは笑いながら近くのテーブルに行ってしまう。
「デリー、この人は?」
呆れたように自分を見ているデリーにエルドは問う。
「この人はこの支部ギルドの支部長のヨーレインさん。」
「初めまして、ヨーレイン・アンニコフと申します。まさか『氷炎』にお会いできるとは思ってもいませんでした。」
そう言って支部長ヨーレインはエルドに手を差し出す。
エルドも手を出し、二人は握手を交わす。
「ささ、立ち話もなんですから…」
ヨーレインが場所を移動しようと促そうとしたが、そこにマクラインが割って入る。
「ひょ、氷炎だと!?そうか、お前が氷炎のエルドか!!」
「こ、こらマクライン!人の話に割って入るなど…」
ヨーレインが抗議をするが、マクラインは立ち上がり駆け寄ってくる。
「氷炎のエルド、会いたかったぜ。」
マクラインはエルドの前に立つ。
「子分が痛めつけられたんだ。落とし前はきっちりさせてもらわないとな。」
そう言ってこぶしを握り、構えるマクライン。
「ちょ、ちょっと待て!こんなところで暴れるな!!」
ヨーレインがマクラインの前に立つ。
「ち、それもそうか。それなら支部長、裏の訓練場借りるぜ。」
「ま、まあそれならいいが…」
「いやいや、なんでいきなりエルド兄さんに難癖付けてくるの。エルド兄さんも、あんなの相手しないで…」
デリーも止めようとするがエルドは意に介さない。
「いや、あそこまでやりたがってるなら相手しないとね。僕も体を動かしたいなと思っていたところだし。」
「まったく…エルド兄さんらしいよ…」
デリーは呆れたように言う。
「それじゃあ、ついてきな。おぅ、お前ら!余計な奴らが入ってこないように見張ってろよ!」
マクラインの言葉に子分達は声を上げた。