45.対決開始
エルドとマリーはランドレット邸に赴いていた。街中には確かに黒い靄が蔓延しているが、この屋敷の周りだけほどんど黒い靄がかかっていない。
「正面突破なのはいいけど、本当に玄関から入ろうとするのはどうなの?」
「まあ、領主辞めてあいさつに来てなかったからちょうどいいんじゃない。」
それを聞いてマリーはため息をつく。
「領主辞めさせられていったいどれだけ経ってると思ってるの。」
「さあ。2~3か月かな?」
「それに前領主としてきたんなら私もメイドの格好がよかったんじゃない?メイド姿でだったら何度かあったこともあるし。」
それを聞いてエルドは思いつかなかったという表情をする。
「メイド服は持ってるけどやらないわよ。ほら、さっさと玄関ノックして。」
「なんか最近マリーが冷たい。」
エルドは玄関扉につけられたドアノッカーに触れようとすると玄関扉が音を立てて開いた。そして玄関扉を開けたであろう使用人と目が合う。
「あ、ランドレットさんいます?エルド・ファニアールがあいさつに来たって伝えてほしいんですけど。」
エルドにとっても唐突すぎて親しい友人宅に来た時のように声をかけてしまう。
「あ、旦那様なら今…」
使用人が後ろを見ると出かけようとしていたのかランドレットとマントを被ったルナテルが立っていた。
「あ、お久しぶりで…」
「え、エルド・ファニアール!!?何をしに来た!!??」
頭を下げようとしたエルドにランドレットは声を荒げて聞いてくる。エルドは何と答えようかと考え口を開く。
「呪いの女神、どこにいますか?」
どうせまともに答えてくれないだろうとシンプルに聞いてみることにした。
「な、なんでお前がそんなことを!逃げるぞ!!」
ランドレットはルナテルを連れて二階に上がっていく。
「ほんとなんでいつもこういう時にこちらの望んだ形に動くんだろうね。」
マリーが呆れたように言う。そして二人は走ってランドレットたちを追いかけた。
ランドレットが逃げ込んだのは執務室だった。エルド達が追い付くと椅子に座りふてぶてしくふんぞり返っている。
「エルド・ファニアール。追い出された領主が今更何の用だ?」
エルドも何がしたいのかよくわからず困惑する。
「だから呪いの女神はどこにいるかと…」
よく見るとさっき一緒にいたマントを被った人物がいないことに気が付く。
「呪いの女神ルナテル様ならお前たちの後ろだ!!」
ランドレットのその声に振り返るとルナテルが大きな鎌を振り下ろしているところだった。エルドはテンペラを素早く取り出し地面に刺す。刺した部分から氷が広がりルナテルを氷で捕獲する。
「ひひひひ、こんな氷、痛くもかゆくもない。」
ルナテルが体をよじると氷が壊れルナテルは解放される。
「さすがに魔力を込めてないから無理か。」
エルドはテンペラを肩に担ぎながら言う。
「ほう、それは魔剣か?」
「そうだ。魔剣テンペラ。伝承だと女神を斬るために作られたって話だけど、実際どうなんだ?」
エルドの問いにルナテルは笑っている。
「さて、魔剣は突如現れたから女神を斬るためかは知らない。でもまあ、魔剣であれば私も簡単に斬られるかもしれないね。」
ルナテルは不気味に笑っている。
「そんな、女神さまは無敵だと思ってたのに。」
部屋の奥でランドレットが叫ぶ。
「けけけ、大丈夫。斬ることはできても人間に殺されるほどやわじゃないから。それよりランドレット、さっさと逃げて。巻き込んじゃう。」
それを聞いてランドレットは窓を開け飛び降りる。それを見たマリーは慌てて窓に近寄り外を見る。下には落ちても安全なように大きなマットが敷かれてランドレットはそれに着地していた。着地してしばらく悶えていたが慌てて逃げ始める。
「うわ。用意がいい。エルド、あのおっさんは私が追いかけるから。」
そう言ってマリーも窓から飛び降りる。
「けけけけけ。ここで私に殺されていた方がましだったかもしれないのに。」
「どういう意味だ?」
「ランドレットには魔物寄せの呪いをかけておいた。ランドレットに危害は加えられないけど、それ以外には…けけけけけけけ!」
ルナテルの不気味な笑い声が部屋中にこだました。




