44.ファニアール領へ向かう馬車で
女神アレアミアと別れて超高速馬車に乗り込み一昼夜かけてファニアール領に向かっていた。
「トーライトには悪くなかったのですか?」
ジェイロットが腕を組み景色を眺めているエルドに聞く。
「…そうかもね。」
エルドは上の空で答える。馬車に乗り込んでからほとんど口を利かない。エルドはもちろんトーライトにもファニアール領へ戻ることを伝えた。トーライトもついてくると言ったがエルドはトーライトに別の場所に行くようにお願いしていた。その時のトーライトの表情はこれまで見たこともない落ち込みようであった。
「このペースだと昼には到着しそうだな。本当に超高速便は早い。」
マリーが高速で流れていく景色を見ながら言う。
「これだけ早いのに馬車内は全然スピードを感じないのがすごいですわ。」
ミレニアも景色を眺めて言う。しばらくの沈黙ののちエルドが口を開いた。
「ダメだ。どう考えてもいきなり乗り込んで女神を出せだなんて言ってうまくいくイメージがわかない。」
「乗り込んでからずっと何考えてたのかと思ったらそんなこと考えてたの?」
マリーが呆れたように言う。
「まあね。少しは作戦を立てないとと思ったんだけど。」
エルドは深く座りなおした。
「確かに女神を出せと言ってもそんなの知らんって返されますよね。」
ジェイロットは苦笑しながら言う。
「女神を見つけても、そもそも倒すことなんてできるんですか?」
「ああ、それは多分大丈夫だと思う。」
ジェイロットの問いにエルドが答える。
「僕たちの持っている魔剣はもともと女神と魔族が戦争をしていた時代に魔族が女神を斬るために作られたものらしい。」
へぇ、とミレニアとジェイロットがつぶやく。
「まあ、国が出来るより昔からある言い伝えらしいから真意のほどはわからないけど、女神アレアミアが特に何も言わないってことは少なくとも魔剣を使えば呪いの女神を斬ることはできるってことでしょ。」
「…女神アレアミアはお兄様が魔剣を持っていると知っていたのですか?」
ミレニアが聞く。
「さあ。初めて会ったのが魔剣を封印していた場所だし、女神だから感知すればわかりそうだけど。」
エルドは首をひねりながら言う。
「な、なんというか…エルド兄さまってここまで考え無しに突っ込んでましたっけ?」
「領主やっているときはトーライトさんがフォローしてたし、そんな危ない橋は無かったから結構考えてやっていたけど、学院時代からこれくらい考え無しだったよ。」
マリーがため息をつきながら言う。
「直感がすごいというのか悪運が強いというのか結果的に何とかなるからね。」
「…エルド兄さまが領主を辞めて正解だったのかもしれませんね。さすがにサンドレア姉さまだったらこんなやり方はしないと思います。」
ジェイロットは冷や汗を感じた。
「マリーお義姉様、本当にお兄様と婚約してよかったのですか?」
ミレニアも今まで知らなかった兄の実情を見て内心焦る。
「え?なんか僕ドン引きされてる?」
それを聞いてミレニアもジェイロットもため息をつきたくなった。
「冒険者として考えればこれくらいの方が楽しくやっていける。むしろ領主として3年間出来てた方が不思議なくらい。」
「おっと君までそんなこと言う。」
エルドはマリーの方を見る。
「だけどその考え無しに救われたのも事実。だから私はエルドと一緒にいるんだ。嫌ならとっくに別れてるよ。」
マリーははにかみながら言う。それを見てエルドも微笑んだ。
「ともかく、あと少しで到着する。最初に話した通り僕とマリーで呪いの女神のところに行く。ミレニアとジェイロットはサンドレアのところに行って今しようとしていることを止めるんだ。取り返しのつかないことになる前にサンドレアを救ってほしい。」
「わかりました。」
「サンドレアお姉様の事はお任せください。」
「久しぶりに本気を出せると嬉しいんだけどな。色々溜まって発散させないとそろそろヤバいから。」
それを聞いてエルドの背筋が凍った。ミレニアとジェイロットは何のことかわからず首を傾げていた。




