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42.女神の調査結果と契約破棄

 エルドは女神の契約で設定された境界線に来ていた。そこを一歩でも出れば女神の契約は破棄され、自分と弟妹に再び呪いが降りかかってしまう。


 ファニアール領から戻ったトーライトの報告は想像をはるかに凌駕したものだった。街中に立ち込める黒い靄。しかしそれを誰も気にしてない。サンドレアに降りかかった借金に夫ルーファスの失踪。何をどうすればそんなことになるのか理解できなかった。


 エルドはサンドレアに対してすべて自己責任だと思っている。しかし、やはり義理とはいえ長年一緒に暮らした間柄。どうしても家族の情が出てしまう。


「ちくしょう…どうすればいいんだ…」


 エルドのつぶやきは風に流されていく。そんな彼を後ろから弟妹が声をかける。


「エルド兄さま…僕たちのことは気にしないでください。」


 エルドは振り返る。


「私たちに呪いが降りかかってもそんなに大変な目に合わないそうじゃないですか。それよりサンドレアお姉様が大変な時に側にいない方が不幸ですわ。」


 エルドは屈み、弟妹を抱きしめる。しかしやはりエルドは遠くの憎い相手よりも側にいる二人を選んでしまう。


 そんな様子をマリーは離れたところで見ていた。さすがにこの状況ではなんて声をかければいいのかわからない。


 マリーがふと空を見上げると3人の上から白い光が降ってきた。何が何だかはわからないが、危険がないとも言えないから3人に近づいていく。そしてマリーが近くまで来た時、白い光は4人を包み込んだ。


 次に目に入ったのは青白く広い空間。そこに4人はたたずんでいた。


「こ、ここは?」


 エルドは見覚えのある場所に周囲を見渡す。すると予想通り、ふわふわと浮いている人影が近づいてきた。


「女神アレアミア!あんたがここに呼んだのか?」


 エルドが声をかけたほうに3人も顔を向ける。


「その通り。色々わかったことがあったから知らせたくてついでだからみんな呼んじゃった。」


 エルドはミレニア、ジェイロット、マリーを見る。


「それで何がわかったんだ?」


「まずあなたの血の繋がってない妹。新たに呪いにかかっちゃってま~す。」


「え、そんな軽く言うんですか?」


 ジェイロットのつぶやきにみんな同意する。


「といってもあなたたちにかかっていたやつよりはかなり弱い呪いだから死ぬことはなさそう。もっとも、呪いの結果衰弱して自殺くらいはしてもおかしくないけど。」


 かなり軽い口調で言うアレアミアにイラつき、エルドは胸ぐらをつかもうとする。しかしエルドの手は彼女の体をすり抜けた。


「え?」


「ああ。言ってなかったわね。女神は基本的に地上に降りるときは精神体だけが降りてくるの。そうじゃないと仕事が出来なくなっちゃうからね。」


 アレアミアはそれぞれの体に触れ、自分の実態がないことを確認させる。


「まあそんなことはどうでもいいのよ。それより呪いの正体がわかったわ。というか、以前からそうだろうとは思っていたんだけど。」


「の、呪いの正体って何なのですか?」


 ミレニアが怯えながら聞く。


「この二つの呪いは女神の呪い。前に少し話したでしょ。人間にいら立ちをぶつけられて心が折れる女神がいるって。」


 エルドは初めて会った時そんな話をしたなと思いだす。


「そういう女神が行き着く先は自身の消滅か、地上へ降りて呪いをふりまく邪神となるかのどちらかよ。誰かが呪いの女神と接触して呪いをかけさせたのね。」


 アレアミアは顎に手を当て頷きながら言う。


「誰が呪いを頼んだかはわからないの?」


 マリーがミレニアとジェイロットの肩に手を置いて言う。


「管轄外だから誰に頼まれたかはわからないわ。残念だけど、これ以上の情報は無いわね。」


 それを聞いてエルドは鼻で笑う。


「誰が呪いを頼んだかって?そんなのもう一人しかいないだろ。」


 エルドにはもう誰が関わっているのか理解した。トーライトの話とまとめればこんなことをするのは一人しかいない。


「しかし女神の呪いか…そんなのどうやって防げば…」


 マリーがアレアミアを見る。


「もしまた契約をすれば新しい呪いも防げるの?」


「う~ん…残念無理。そっちのお兄さんはもう契約してるし、そっちの子供たちじゃ代償が大きすぎる。そして赤髪のあなたじゃつながりが薄い。誰も契約は出来ないわ。」


 アレアミアは心底残念そうに言う。


「もう何もできないのか。」


「え、エルド兄さま…」


 エルドはその場に座り込んでしまう。ジェイロットが側による。


「方法が全くないわけじゃないわ。」


「あるのか?」


 エルドが顔を上げる。


「呪いの女神を殺せば呪いそのものが無くなるはず。もし残っても女神の力で何とか出来るわ。」


 それを聞いてミレニアとジェイロットの表情が明るくなる。


「ちょっとまって。女神は地上に降りるときは精神体って言ってたじゃない。精神体の相手なんてどうやって倒せば…」


 マリーが疑問を口にする。


「それも大丈夫よ。さっきも言った通り呪いの女神は心の折れた女神。精神体じゃなく本体ごと地上に降りてるの。邪神は天界にはいられないから。」


「そ、それじゃあ…いや、でも女神を相手に戦えるの?それに戦力も…」


 マリーがエルドを見る。エルドはマリーが言わんとしていることを理解する。エルドは立ち上がり、ミレニアとジェイロットに向く。


「…女神の契約を破棄すれば僕たちに呪いが戻ってくる。死ぬようなものでもないらしいが、それでも大丈夫か?」


 それを聞いて二人は頷いた。


「…わかった。」


 エルドはアレアミアに振り返る。


「女神アレアミア、申し訳ないが契約を破棄する。愚妹を助けに行かないといけなくなったからね。」


 それを聞いたアレアミアは微笑んだ。


「わかったわ。契約はこちらから破棄しとく。…これであなたとの契約は破棄されたよ。」


 エルドはレコードを起動し、女神の契約が無くなったことを確認する。


「それではあなた方を地上に戻すね。そこから先は、あなた方の赴くままに。」


 そう言って視界が白い光に包まれ、元の場所に戻っていた。


「さあ、帰ろうか。ファニアール領へ。」


 エルドは気合を入れ、戻ることはもうないと思っていた実家へと向かっていく。


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