4.支部ギルド
エルドとデリーは支部ギルドの前に馬車を止めてもらい馬車から降りる。
「用が済んだら停車場に行くからそこで待ってて。」
デリーは業者にそう伝えると、馬車は停車場に向かって走り出した。
「まだ新しいんだな。」
エルドは支部ギルドを見上げながら言う。
「うん。支部ギルドだけじゃなく、この町自体がまだ新しいんだ。できて十二年くらいかな。」
「へ~。」
そんな会話をしながら二人は支部ギルドの中に入る。
「僕は支部長に声をかけてくるから、エルド兄さんは少し休んでたら?馬車の中じゃ何も口にしてなかったしのどが渇いたりしてるんじゃない?」
デリーにそう言われてエルドはのどの渇きを感じた。そういえば、乗合馬車を降りてから水を一口飲んだだけでデリーと合流してからは何も口にしていない。
「ああ、そうさせてもらうよ。」
デリーは受付カウンターへ、エルドは支部ギルド内の酒場へと足を運ぶ。
「開いてるかい?」
酒場のカウンターでグラスを磨いていた男に声をかける。服装からバーテンダーのようだ。
「ええ、もちろん。何を吞まれますか?」
「そうだな。何か適当に頼むよ。」
エルドは椅子に座りながら言う。バーテンダーは頷きカクテルを作り始める。そして青い液体に緑の葉が乗っているカクテルを出す。
「お客様の瞳の色に合わせてみました。」
「ははは、ありがとう。」
エルドはカクテルに口をつけ一気に呷る。緑の葉は本物ではなく甘い菓子だった。
「旅の冒険者で?」
「まあそんなものかな。」
バーテンダーはお代わりをエルドに差し出す。
「ではごゆっくり。」
バーテンダーは一礼しグラス磨きを再開する。
「おいおいおいおい、こんな昼間っから呑んでいるとはいいご身分だな~!」
三杯目のカクテルを呑み干しているとふいに声がしてそちらの方を見る。
数人の男がいかめしい表情でエルドを見ている。
「たまには昼間っから呑むのも悪くないよ。一緒に吞むか?おごらないけど。」
エルドはやや挑発気味に男たちに言う。
「なんだこの野郎!舐めてんのか!?」
「見ねえ顔だから先輩に対する礼儀ってモノを教えてやるしかねぇな!」
やっぱりやってることはどこも同じかとエルドは思う。
ギルドは国営機関ではあるが、依頼の内容の性質上か冒険者は粗暴なものが多い。
仲間意識も強く、普段一緒に仕事をする冒険者や依頼を持ってくる領民の顔は大体把握している。
そして普段見かけない新参者にはこのように難癖をつけて絡んでくることが多い。
エルドが学院を卒業後、冒険者になった時は中央都のギルドで登録をした時はこんなことはなかったが、国中のギルドを渡り歩いていると何度かこのように絡まれたことがある。
「先輩に対する礼儀ね…実力主義の冒険者に先輩後輩もないだろ。」
そう言ってエルドは立ち上がる。近くにいた男はエルドの体格をまじまじと見る。
「なかなか鍛えているようだが…」
そう言ってエルドに殴りかかる。エルドはその拳を受け流し、男の腹部にけりを入れる。
蹴られた男は仲間の男の方へ倒れこみ、仲間もろとも床に倒れこんだ。
重なった男たちの一番上の男の腹を踏みつけながらエルドは微笑む。
「さぁ先輩方、礼儀を教えてほしいのですが、いつまでお休みになられているんですか?」
「や、やろう!!」
男たちは起き上がろうともがくが、エルドが一番上の男を踏みつける足に力を込める。
「ようようにいちゃん、そのくらいで勘弁してやってくれないか?」
エルドが声のした方を見ると筋骨隆々の大男が立っていた。