38.別行動のエルド
エルドは弟妹を家に帰らせた後トーライトのところに向かっていた。
「ぼっちゃま。それは構わないですがいいのですか?まだ関わりあうことになると思いますが。」
それを聞いてエルドは頷く。
「はぁ…あんな事されてよくもまあ…甘いと言いますかお人よしといいますか。」
「同じ意味だと思うけど。」
エルドはトーライトにファニアール家の様子を伺ってくるように頼んでいた。もちろんサンドレアがどうなろうと自己責任だというのは本心だが、だからと言って全く心配しないわけではない。
「わかりました。明日出て1週間ほどで戻ってきます。状況によってサンドレア様には接触しますが問題なさそうでしたらすぐ帰ってきますので。」
「それでいい。もし今問題があればミレニアもジェイロットもあっちには帰さない。2人が納得しなくてもね。」
それを聞いてトーライトは首を振る。
「やれやれ。やっと婚約したと思ったらもう2人の子持ちになった感じですね。ミレニア様もジェイロット様も危なくなったら逃げ出しますよ。」
「さすがに子持ちはないでしょ。そんなに年食って見える?」
「いえ、ぼっちゃまはむしろ幼く見えますが、それに輪をかけてミレニア様もジェイロット様も幼さがありますので。背も低いですし。」
そんなに幼く見えるかとエルドは自分の顔をなでる。
「まあ、ファニアール家は代々童顔が多いようなので遺伝的なものでしょうが。」
トーライトはため息をつきながら言う。エルドは苦笑しながら危険に会わないようにとトーライトに言い別れた。
そして次に足を運んだのは魔剣が封印されていた洞窟。そこは依然守護の女神アレアミアと出会った場所。再び会える可能性は低いが、契約した女神と話がしたかった。
洞窟の最奥まで行きあたりを見渡す。以前と変化はない。女神と対峙した所へ落ちた場所に足をかける。そしてあの時と同じ浮遊感を感じ、エルドは穴に落ちて行った。
気が付くと以前同様青白い何もない空間。そしてアレアミアが浮きながら眠っているのを見つけた。
「…女神の威厳もへったくれもないな…」
正直会えないだろうと思っていただけに拍子抜けする。
「女神アレアミア、話がある。起きてくれないか?」
声をかけるとアレアミアは薄く目を開く。
「あれ?まだいたの?契約はすんだんだから外に出れるはず…ふぁ~…」
アレアミアは大きなあくびをしながら言う。
「いや、あんたと契約してから結構たってるよ。ちょっと話がしたいからまた来たんだ。」
「ん~…そうなの…?女神の事嫌っているのに物好きだね~。それで…聞きたいことって何?」
エルドはこれまでの事をかいつまんで説明する。そして、女神の契約の範囲をサンドレアまで及ばせられないか尋ねた。
「なるほどね~…まさか血の繋がってない妹がいるだなんて思いもしなかった。」
アレアミアは浮きながら顎に手を当てて考える。
「でもごめんね。一度結んだ女神の契約は後から変更できないの。」
それを聞いてもエルドは落胆しなかった。予想していたことだ。あくまで確認のために会いに来ていた。
「わかった。昼寝の邪魔して悪かった。もう来ないよ。」
エルドは踵を返そうとする。
「あ、ちょっと待って。」
帰ろうとするエルドをアレアミアは引き止める。
「なんだ?」
「契約はしてないけど呪いの事詳しく調べてあげる。私の確認ミスもあるし。」
「…なんでそんなことをしてくれるんだ?」
「う~ん…女神だからかな。」
歯切れ悪くアレアミアは答える。
「あまり期待しないでおくよ。」
エルドはそう言って帰っていった。それを見送りしばらく浮いているアレアミア。何かを考えているようだ。
「あぁ…やっぱりあの子の子供か…寝ぼけてたからちゃんと確認できてなかった…」
額に手を当てため息をつく。
「久しぶりの休暇で寝だめしたらこれだよ…やっぱり眠りの女神に転職しようかな。」
そんなことを言いながらアレアミアは羽ばたき空へと向かっていった。
エルドは帰ってきた。女神アレアミアとの会話を思い出しながら玄関ドアを開けると突然火球に襲われ庭先まで飛ばされてしまう。
「な、なんだ!?」
「なんだじゃないでしょ。いったいどこ行っていたのかな~?」
玄関を見るとマリーが笑顔で立っていた。しかしその笑顔は引くつき怒っているのがわかる。
「どこって女神に…」
そこまで言って思い出す。女神のいた洞窟まで歩いて丸一日かかる。今回行きも帰りも乗合馬車が捕まらなかったために徒歩で移動していた。そして何より、洞窟まで行ってくると伝えるのを忘れていた。都合二日、全く連絡なく過ごしていたという事だ。
「えっと…ごめん!伝えるのすっかり忘れてた!!」
エルドは地面にひれ伏し謝罪する。マリーから放たれていた怒りの魔力が霧散していくのを感じる。
「まったく。私より2人に謝罪しときなよ。自分たちがエルドからの伝言を聞き漏らしたんじゃないかって泣きそうになってたんだから。」
顔を上げるとミレニアとジェイロットが不安そうな表情でマリーの背後から顔を出していた。マリーはあきれてはいるが口角が上がっている。エルドは深く悩むと連絡などを忘れることがよくあった。今回もそんなとこだろうとマリーは心配してなかった。しかしそれを知らない弟妹を心配させたのだから怒って当然だと思っていた。
「う…あ…ごめんなさい。」
弟妹に向かって再び頭を下げる。




