35.冒険者体験
翌日、エルドはミレニアとジェイロットを連れギルドにやってきた。朝食の時、今日は何をしようかと話し合っていてミレニアが冒険者の仕事ぶりを見てみたいと提案したからだ。
「あ、アニキ!!おはようございます!!」
ギルドに入るとマクラインが大きな声であいさつしてきた。以前のダンジョンで助けられ、マリーに手を出そうとしてマリー本人に鉄拳制裁を喰らってからマクラインはエルドをアニキ、マリーをアネゴというようになっていた。それはマクラインの子分も同じことだった。それを拒絶した奴もいるため子分の数は半分くらいに減っている。
「おはよう。アニキはやめてって言ってるでしょ。」
「俺を目覚めさせてくれた方をアニキと慕うのは当然の事。これからもよろしくお願いします。」
マクラインは姿勢正しくお辞儀をする。目覚めさせたのは多分マリーだし、目覚めたのはマゾにだろうと心の中で思ったが、ミレニア達がいるために口には出さなかった。
そしてそのミレニアとジェイロットは突然現れた全身脱毛人間におびえ、エルドの後ろに隠れている。マクラインも見た目が悪いわけではない。しかしそれはある程度毛がある時の話で、眉毛すらなくなった顔は初対面の人間に言い知れない恐怖を与える。
「あぁそう…トラブルなんか起こさないで仕事するんだよ。」
そう言ってソフィアのいるカウンターに向かう。
「なんか簡単な仕事ないかな?」
そう言ってソフィアに声をかける。ソフィアが顔を上げエルドを見た後、後ろに引っ付いているミレニアとジェイロットを見て目を見張った。
「え、エルドさんのお子さん…ですか?」
「そう来たか。さすがに僕の子供とするには大きすぎるでしょ。年の離れた弟妹だよ。」
それを聞いてソフィアは胸をなでおろした。
「あぁ…びっくりしました。えっと…簡単な依頼ですか…薬草採取かウサギ魔獣の討伐がありますね。」
「じゃあその両方受けとこうかな。」
エルドは導き石を首から外し、水晶タブレットにかざす。
「はい、これで大丈夫です。よろしくお願いします。」
エルドはレコードを見て依頼を受けたのを確認する。そして二人を連れて西の森へ向かった。
「さて、まずは薬草採取だけど、本当にこの森は薬草に事欠かないな。」
森に入ってすぐ、薬草が群生しているのが目に入る。
「これを採取すればいいの?」
ミレニアが薬草をつまみながら言う。
「ああ。根っこを残して茎ごとね。うちの庭でも育てられれば楽なんだけどな。なんで鉢植えでしか育たないんだろ。」
エルドが紐を亜空間から取り出しながら言う。
「え?だってお義兄様の家の庭じゃあここと違って土の魔力量が少ないから薬草が育たないんですよ?」
さも当たり前のようにミレニアが言う。その言葉に薬草を摘んでいたジェイロットも驚く。
「え?そうなの?」
「はい。土の魔力がお兄様の家の魔石に吸われて魔力量がほかの場所より少ないんですわ。だから薬草を植えても薬草の魔力も吸われて育たないんだと思います。」
魔石は魔力をためておく人工石のことだ。エルドの家には家の保全のために魔石が備え付けてあり、その魔石は自動で周囲の魔力を吸収する仕組みになっていた。魔石の存在は知っていたが、その魔石が土の魔力を吸っているのは知らなかったエルドは驚く。
「そ、そんな理由だったのか…」
肥料を変えたりして何回も挑戦していたのに、根本的なところで間違っていては育つものも育たないという事だった。
「だから鉢植えに移した土からは魔力は吸われないから薬草も育つのか…」
「?気が付いてなかったのですか?」
ミレニアは不思議そうに言う。昨夜の雑談中、ジェイロットもエルドにその話を聞いていて、なぜなのかわからなかったためにミレニアが理解しているのが不思議でたまらない。
「ミレニア姉さま、もしかして魔力の流れが見えているんですか?」
「ええ。もちろん。」
またしても当然という表情でミレニアは言う。
「前々から模擬戦で魔法を的確に防ぐから不思議に思っていたんですがそういう事だったんですね。」
本来人の目に魔力の流れは見えない。だから魔力感知で魔力の流れを読もうとするものだ。しかし、ごくたまに魔力を五感で感じるものがいる。ミレニアは目で魔力を見ることが出来る稀有な才能の持ち主であった。
「あら。誰でもわかることじゃないんですね。」
「おいおい…確かそのあたりも勉強しているはずだよ…」
エルドは頭を抱える。
「やっぱり一度基礎から復習させないとだめだなこりゃ…」
ある程度の学力はあるようだが、基礎の部分が抜けていそうだなとエルドは後で何を復習させるか考える。もっとも、そのあたりは学院に入学してから学ぶことなので本来なら今勉強することではないが、エルド自身入学前に一通りのことを学んでいたため覚える必要があると思い込んでいた。そのためミレニアはやらなくてもいい苦労を強要されてしまった。




