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33.学院の存在意義

「何はともあれエルド兄さまもやっと結婚ですね。これからも二人で冒険者を続けると思うんですけど、子供はどうするんです?トーライトが近くにいるから何とかなるのかな。」


 ジェイロットにとってそれはほんの小さな疑問だった。エルドもマリーも一般的な適齢期より遅れているのもあり、子供の事はどう思っているのかとよくある質問だった。


 しかしマリーがほんの少し表情を曇らせた。悪いことを聞いたのかと思いエルドを見ると同じように表情を曇らせている。


「いやジェイロット、その質問はもっともだ。まだ学院に通ってない2人が知らないのも無理はない。」


 不安な表情になっているジェイロットに微笑みながら言う。普段は空気をよく読む弟なだけに失言してしまったと焦っているようだ。


「まず結論から言うと、僕とマリーじゃ子供が作れないかもしれない。絶対じゃないけどね。」


 ミレニアが息をのむ。


「な、なんで…」


「これは学院に通ってから教えられたんだけど、魔力量が相手との差が大きくなると子供が出来づらくなるらしい。そして僕の数倍、マリーは魔力を持っている。」


 エルドは息を吐く。


「もっとも、僕も平均値の10倍はあるから正直誰が相手でも望み薄だけどね。」


 エルドの言葉にジェイロットが驚く。


「へ、平均値の10倍って…エルド兄さまが高い魔力を持っているのは知ってましたが数値にするとそんなに…」


「もっともこれはマリーの魔力に追いつこうと訓練した結果だけどね。それでも髪も瞳も色が出ているマリーには到底追いつかなかったよ。」


「で、でもなんでそんなことを学院に入ってからじゃないと教えてくれないのですか?」


 ミレニアがもっともな質問をする。


「さ~て、なんでかね。昔からそうだから、公開すると混乱をきたすからというのが学院と王家の意見らしいけど。


 色々調べてみたんだけど国が出来たころ、かなり大きな戦争があったらしい。それこそこの国だけじゃなく世界中の人間が死に、人類が絶滅するんじゃないかというレベルの。その時に恋愛結婚で子供が出来ませんじゃ人が増えなくてせっかく作った国が滅んでしまうことを恐れて一定値の高い魔力を保有していると中央学院に強制的に入学させられる。そうじゃなければ各領地にある地方学院に入学っていう風にしたのかもね。


 まあ要するに、国営の見合い場なんだよ学院って。もちろん魔力は訓練次第で大きくできるけど、さっき言った通り生まれ持っての相手にはかなわないんだ。生まれ持っている人が訓練すればその差はさらに開くしね。」


 エルドがため息をついた。


「もちろん教えなかった弊害もある。マリーのように両親が中央学院の出じゃなかったために必要以上に魔力を高めないようにと教育できなかった。特にマリーは貧困のおかげで冬は暖も取れずに自分の魔力を活性化させてしのいでたって話だから。」


「むしろそれをあてにして親は冬の燃料を用意しなかったくらいだからね。」


 マリーは苦笑する。


「そんなわけで、最初に言った通り僕とマリーの子供はちょっと難しいかなって話。」


「こ、こういう事を聞くのは申し訳ないのですが…エルド兄さまは領主になることを決めていたのに跡取りの事は考えてなかったのですか?」


 ジェイロットは恐る恐る聞く。


「う~ん。もし話を聞いた後にマリーと出会ってたら違ったかもね。やっぱりあの話の後別れるカップルが何組かいたし、次の相手は魔力量が似通っている人を選んでたみたいだし。」


 エルドは思い出すように言う。


「だけど話を聞く前にマリーに出会えたし、話を聞いた後もまあ何とかなるでしょって思ったから。」


「ごめんなさい。変なことを聞いて…」


 ジェイロットは申し訳なさそうに謝る。


「気にしないでいいよ。そもそもいくら両方に色が出ていてもあんなに魔力が高い状態で入学してくるなんて誰も予想してなかったってことなんだろうから。レアなパターンだから今後も改変されることもないだろうし。」


 エルドが笑い、マリーも同意と頷く。


「実際、母が色が出ない程度の魔力なだけで、祖母も両方に色が出てる人だったから。初めて見た時自分と同じ赤髪赤目でうれしかった。両親と住んでいたところは色が出てない人しかいなくて疎まれてたから。結構コンプレックスみたい。」


 マリーが遠い目をする。


「マリーお義姉様って…かなり大変な人生を送っていらっしゃるのですね。」


 よもやどこから同情すればいいのかわからない。ミレニアはそんな心情になっていた。


「さて、もう辛気臭い話はおしまいにしよう。」


 エルドが空気を変えようと手を叩く。


「さてミレニア。さっき自分で言っていた通り来年は学院に入学だ。瞳に色が出てるから確実に中央学院だろうけど、中央学院は一応王家のひざ元ということで結構勉強が大変なんだ。」


「そ、そうらしいですわね。」


 ミレニアは目をそらす。


「一応ジェイロットと残った使用人のみんなに頼んでミレニアの勉強を見てもらっていたはずだけど…」


 エルドが期待した目をミレニアに向ける。


「も、もちろん課題はやっています…」


「一応ね。」


 ジェイロットが苦笑しながら言う。


「ほう、ミレニアの事だからやらずに放置してると思っていたけど一応はやってるんだ。」


「はい。僕と一緒にやらせました。椅子に縛り付けて。」


「うぅ…弟に無理やり縛られるのは恥でしたわ。」


 ミレニアが泣きそうな表情をする。


「じゃあとりあえずどこまでできてるかテストしてみよう。」


 エルドは笑顔で立ち上がる。


「そ、そんな…せっかくお兄様と遊べると思ったのに…」


「大丈夫。出来が良かったら一緒に遊ぶよ。まあ、学院に入ってから大変な思いをしないようにある程度は勉強できるようにならないとね。」


「うぅぅ…お兄様、悪魔ですわ…」


 ミレニアは泣きながら抗議したがジェイロットに椅子に縛られともにエルドのテストを受けた。結果はエルドが予想したよりはよかったためお咎めはなかったが、ミレニア専属講師であったマリーがいるため滞在中は毎日勉学の時間をあてがわれることになった。


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