31.弟妹の再会
マリーと婚約して数日たった。エルドは庭で鉢植えに植え育てている薬草に水やりをしている。
婚約をしてもすぐに結婚しないのは国の法律によりいかなる場合も婚約期間を1年間以上設けなければならないからだ。エルドもマリーもこのことは理解していた。だからこそエルドの怠慢だとトーライトに報告した際ここぞとばかりに説教された。隣で聞いていたマリーも委縮してしまったほどだ。
「はぁ…何で鉢植えだとちゃんと育つんだろ。」
薬草の育ち具合を確認しながらエルドはため息をつく。庭を耕して畑にした方が収穫量も多くなるが、なぜか庭では育たない。
「土は問題ないし、トーライトに聞いて肥料も適切なものを教えてくれた。なぜか薬草だけが育たない。」
庭にはトーライトが新たに植えてくれた初冬に咲く花がきれいに咲いている。それに鉢植えの土は庭の隅から掘り出したものだ。同じ土なのに薬草だけがすぐに枯れてしまう。
十分に育った薬草を一つ抜き、根っこを切り落とし鉢に植えなおす。根っこさえ残っていれば薬草は何十回でも生え続ける。言い伝えでは何万年と植えたままにすると大木となるという伝承もあるが、草が木になるのはいくら何でもありえなさすぎると眉唾物の話であった。
「さて、料理の薬味に薬草とってきてと言われたけど、料理に入れて大丈夫なのかこれ。」
エルドが薬草を弄びながら家に入ろうとすると庭先に馬車が止まるのが見えた。誰か来たのかと馬車を見ていると、中からミレニアが飛び出してきた。
「お兄様!お久しぶりです!!」
ミレニアは馬車から降りると駆け出し、エルドに飛びついた。
「ミレニア。思ったより早かったね。」
ミレニアを抱き上げるエルド。
「お、お兄様…さすがに子供じゃないのでこれは恥ずかしいです。」
エルドは苦笑しながら抱き上げていたミレニアを降ろす。
「ごめんごめん。小さいころはこうやってあげてたからついね。ジェイロットはどうする?」
馬車から2人分のトランクを抱えて降りてきたジェイロットに顔を向けながら言う。
「僕もいいです。エルド兄さまも大変でしょうし。」
目をそらしながら言うジェイロットにエルドは笑顔で近づき抱き上げた。
「そんなこと言って本当はしてほしかったんでしょ?ほーら。」
小さな子供をあやすようにジェイロットを高く掲げる。
「エルド兄さま!やめてください!!」
「ごめんごめん。もうしないよ。むしろできないかな。普通に重たくなったし。」
恥ずかしがるジェイロットを降ろし、頭をなでながら笑う。
「あらお兄様。私はまだまだ軽いですわ。胸もお姉様のように大きくないですし。」
ミレニアは自分の胸に両手を当てて言う。たしかにミレニアは同年代に比べ小さい方だろう。そしてサンドレアは大きいと言われるサイズだ。しかしエルドはマリーの大きさに見慣れているためミレニアはともかくサンドレアも小さい方じゃないかと考えていた。
「僕もそんなに重くなりました?まだ筋肉はそんなについてないと思います。」
久しぶりに会った義母弟妹と談笑しているとマリーがエプロン姿で外に出てきた。
「エルド薬草は~?それに騒がしいけどお客さん?」
マリーはエルドの背後から顔を覗かせ、ミレニアとジェイロットを見る。エルドが遮っている状態だったため、玄関からは誰が来たのか見えてなかった。
「あら、ミレニア様にジェイロット様。」
マリーがエルドの背後から顔を出すと、ミレニアとジェイロットは驚愕の表情に変わる。
「お兄様が女性と同棲してます!!」
「それよりその声、もしかしてマリー!?」
マリーは2人の前に立ちエプロンの裾を持ち上げ礼をする。
「はい。エルド様専属メイドのマリーでございます。ミレニア様、ジェイロット様お久しぶりです。」
マリーが顔を上げるとミレニアもジェイロットも驚愕の表情のまま固まっていた。エルドはその様子を見て苦笑しかなかった。
食堂でマリーの淹れた紅茶を飲み一息ついた。ミレニアはマリーを見て口を開く。
「まさかマリーがお兄様のところにいるとは思っていませんでしたわ。トーライトならおかしくないですが。」
「むしろ今いないことの方が変に感じますね。」
ジェイロットが続ける。
「それにしてもマリー、髪も瞳も赤色だったのね。とても綺麗。以前は黒髪で曇った眼鏡だったから少し違和感ありますけど。」
「ありがとうございます。昔は自分の髪や瞳の色が好きじゃなかったんですけど…」
そう言ってエルドを見る。
「エルドと初めて会った時、純粋な瞳で綺麗だって言われてそれからは悪くないかなとは思ってますね。」
「まあお兄様ったら意外と軟派なんですね。」
「いや、そういう状況で言ったわけじゃ…」
エルドはナンパして声をかけたわけじゃないと否定する。
「エルド兄さまとマリーはどこで出会ったんですか?」
それを聞いたジェイロットが2人に聞いた。




