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3.早朝の出発

 翌朝、エルドは早朝からトランク1つで家を出た。


 悲しむであろう異母弟妹の顔を見たくなかったため朝早く出ようとしたが、異母弟妹はそんな異母兄の心情を読んでいたのか朝早くからエルドを待っていた。


「お兄様、お別れも言わず行ってしまうのはひどいです!」


 ミレニアはエルドの腕にしがみつき、顔を埋める。


「ごめんよ。僕もこんな状況でなんてお別れを言えばいいのかわからなかったから…」


 エルドはミレニアの頭を優しくなでる。そして少し離れてみていたジェイロットに顔を向ける。


「ジェイロット、もし何かあれば、ラルフ叔父さんのところに行くんだ。叔父さんにはトーライトを通じて状況を伝えるようにしてある。

 

 でも…出来ればサンドレアの力になってほしい…ミレニアも…」


 まだ未成年の異母弟妹に頼むようなことではないことはエルドにも重々承知だった。


 だけど、どのようになるのか予測がつかないこの状況で、最悪の状況にさせないためにはジェイロットの幼いながらも思慮深い知性にエルドは頼るしかなかった。


 ジェイロットは青い瞳を、ミレニアはオレンジの瞳をエルドに向ける。


「わかりました。どこまで力になれるかはわかりませんが…精一杯やってみます。


 そして出来るなら、姉さまに変わって僕が領主に…」


 その言葉を言い切る前にエルドは首を振る。


「領主にはこだわらなくていい。成人したら好きな道を進むんだ。その後はもう…女神さまの導きを受けるしかない。」


「…わかりました。」


 ジェイロットは普段は見せない兄の悲しげな表情に、それ以上何も言えなかった。


「さぁ、馬車が出る時間になってしまうから僕は行くよ。行先は決まっているけど、定住するかもわからないし、いろいろと落ち着いたら手紙を出すよ。」


 抱きついているミレニアを優しく放し、ジェイロットの頭をクシャクシャと撫でてエルドは家を出た。


「女神さまに祈っても…何も起こらないことはお兄様が一番わかっているはずなのに…」


「今回は、それにすらすがらないといけない…ということなのかもしれません…」


 エルドが歩いていく後姿を見ながら、ミレニアとジェイロットはポツリとつぶやいた。




 エルドは乗合馬車で北東へと向かった。そこは実母の実家がある領地で伯父が領主として治めている。


 三日間馬車に揺られながら目的地へ到着する。


「こっちはまだ寒いな~。あ~、尻が痛い。」


 ほとんど座りっぱなしの馬車から降りて体を伸ばしながらエルドはつぶやく。


 乗っていた馬車はそこそこ高級なものではあったが座りっぱなしというのは体が硬直し、疲れてしまう。


「エルド兄さん、まだこれからも馬車に揺られますよ。」


 エルドが声のした方へ向くと、緑色の瞳に黒髪の好青年、従弟のデリー・ライナスが苦笑しながら立っていた。


「久しぶり、デリー。わざわざ迎えに来てくれてありがとう。」


「エルド兄さんのためならこれくらいわけないよ。」


 もともと歩いてデリーの元へ行こうと思っていたエルド。そこに思わず本人が迎えに来てくれていて少々面食らっていた。


「トーライトさんから緊急便が届いたときは驚いたよ。これからどうするつもりだい?」


 馬車に二人が乗り込むとデリーは聞いてくる。


「しばらくゆっくり…としたいところだけど正直あんまりお金もないし、こっちで冒険者を再開するよ。」


「エルド兄さんならそういうと思ってたよ。それじゃあまずは支部ギルドに行こうか。」


 デリーは業者に行先を伝え、馬車は走り出す。


「僕も今の仕事がなければエルド兄さんと冒険者をやりたいものだ。」


「ライナス家の跡取り様が冒険者なんかやったらそこらじゅう大騒ぎだね。」


「それならファニアール家の元領主が冒険者やるのも大騒ぎだろうね。」


「僕はこっちじゃ無名…てことはないけど、領主だってことは知られてないだろうから問題ないよ。」


 デリーは苦笑する。


「一応自分が有名っていうのは理解してるんだ。」


「ま、六年前にここでいろいろやらかしたからね。こればかりはしょうがない。」


 エルドも笑い、二人を乗せた馬車は一路、支部ギルドへと向かうのだった。


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