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27.私は一緒にいる

「じゃあ本題。」


「今の話が本題じゃなかったのかよ。」


 エルドはあきれた表情で言う。


「あれが本題なら、マリーにも席を外してもらってるよ。」


 それもそうかとエルドは納得する。


「3年経ってるけど、お前らは特に進展してなさそうだな。むしろ後退した?」


 その問いに2人はビクリと体を硬直させる。


「忙しかったのを考慮しても3年は長いな。」


「いや、でも領主の仕事は大変だし…私だって別に別れたつもりは…」


 マリーがフォローを入れようとするが、言葉がうまく出ない。


「おいおいマリー。こいつは忙しさにかまけて君をほったらかしにしてたんだぞ?それどころかメイドとして雇ってほかの男のところに行かないように監視までして。」


「ち、ちが…」


 エルドが否定しようとするが、アルがにらみをきかす。


「何が違うんだ?他人から見ればそうだろ。」


 エルドが押し黙る。


「そんなわけだマリー、こんな薄情な奴より俺と一緒になろう。俺は君を待たせたりはしないよ。」


 アルがマリーに手を差し出す。マリーは一度目を伏せ、アルを見据える。


「昔から言っている。私はエルドと一緒にいる。エルドが見た目と違って、わがままで自分勝手で無責任で薄情なのは知っている。だからこそ…一緒にいて楽なんだ。」


 マリーの曇りのない言葉にエルドは顔を伏せる。アルは笑みをこぼし立ち上がる。


「あ~あ。これで100回振られたよ。約束通りこれ以上求婚できないね。」


 アルはマリーに言う。マリーは学院時代、アルが一方的につげた約束を思い出す。


「それじゃあ、一度北に戻らないといけないから行くよ。また時間を見つけて遊びに来るから、その時には何かしら進展していることを望むよ。」


 アルは笑いながら出て行った。


「マリー…ごめん…」


 マリーはエルドの頭に手を乗せる。


「わがままで自分勝手で無責任で薄情なのは知ってるし、同時に優しくて純粋なのも知ってる。私を見ても蔑みも侮蔑もしないできれいだと言ってくれたのは、エルドが初めてだったから。」


 マリーの言葉にエルドは顔を上げられないでいた。




「お帰りですか?」


 アルが外に出るとトーライトが道具を片付けていた。


「はい。久しぶりに会ったらだいぶ腑抜けてるから活を入れておきましたよ。」


「はっはっは。ぼっちゃまもぼっちゃま呼びをやめてほしいと言いながら甘えがなかなか抜けないですからね。マリーに甘えている限り一生ぼっちゃまですよ。」


 トーライトが高らかに笑う。


「まあこれで、次あった時に進展してなかったら女神の契約だろうが何だろうが破棄させて北の最前線に送ってやりますよ。」


「まだいざこざが?」


 アルが勤務している北の前線では昔から戦争が絶えず、緊張状態が続いている。


「いや、ここ1年は攻め入られても押し返せてるんで問題ないですが、相手が相手なのでいつ大群が攻めてくるかわからないんですよ。」


「そんなところにもう10年近くいらっしゃるのも大変ですね。」


「王位継承権の低い第5王子がやれることなんか、これくらいしかないですからね。」


 そう言ってリュトデリーン王国第5王子、アルデリック・リュトバルクは目元を拭う。それを見てトーライトはそっとハンカチを差し出した。


「その涙は、好きな人に振られたものなのか、厳しい前線に行かなければいけない悲しさのものなのかどちらです?」


「そういうデリカシーなくずけずけと聞くところ、エルドによく似てますね。教育係としてはいかがなものでしょうか?」


 アルはトーライトのハンカチで目元を拭い、笑いながら言う。


「おやそうですか?こちらでは普通に聞いていたのでそういうものかと思っておりました。」


 トーライトは笑いながら言う。アルは涙が引っ込んでしまい、人柄も似ているなと笑ってしまう。


「ファニアール家に関しては手出しは出来ないけど、いろいろ気になることがあるから調べられるところは調べておきますよ。まあ、城に常駐してるわけじゃないから時間はかかるだろうけど。」


「エルド様ももうそこまで気にしてないと思うので、お手すきの時にでもお願いします。」


 アルはトーライトにハンカチを返しその場を立ち去った。トーライトは一礼し、アルが見えなくなるまで見送った。


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