25.来訪者
エルド達は一週間のダンジョンの調査を終え帰ってきた。
調査中、巨大ゴブリンが雌だったことが発覚したり、マクラインがマリーに手を出そうとして生え始めた体毛を毛根ごと焼き尽くされ全身脱毛されてしまったりとあったが、調査は無事にギルドに報告され、現在ダンジョンの危険度は低いため冒険者の狩場として問題ないと設定された。
家に戻るとトーライトが庭の手入れをしているのが見えた。そしてもう一人人影が見える。
緑色の頭髪に仕立てのいい軍服、その姿にエルドとマリーは誰が来ているのかを悟った。
「アル!久しぶりだね!」
エルドはトーライトの脇を駆け抜け旧友に駆け寄った。トーライトは挨拶をしてもらえないさみしさか悲しそうな表情をしている。
「やあエルド。やっと帰ってきたね。」
アルは手を上げる。エルドも手を上げてお互いの手のひらを打ち合わせた。
「そして…」
アルは離れたところで見ているマリーに顔を向けた。
「我が愛しの姫君。よければその見目麗しいあなたに久方ぶりの愛を捧げさせてください。」
マリーに近づき跪く。
「いや、普通にないから。」
マリーはトーライトが使っていた箒をもち、先端をアルに向けて距離をとる。
「ははは、相変わらずだな。」
エルドは苦笑する。
「トーライト。手入れありがとう。ゆっくり話したいからお茶の準備をお願いしてもいいかな。」
「ええもちろん。そんな言い方しなくてもぼっちゃまの命はいつでもお引き受けいたします。」
トーライトは執事然と礼をして家に入っていく。
「おー、本当にぼっちゃまって呼ばれてたんだな。あの人、オレの前だとエルド様って言ってたのに。」
「ホント、やめてって言ってるんだけどね。」
エルドはため息をつく。
「それで、あんたは何しに来たの?まだ北の戦線で指揮執ってるんじゃなかった?」
マリーが箒の柄でアルをつつきながら言う。
「マリー、愛情表現が痛いよ。でも、そんな愛もちゃんと受け止めるよ。」
マリーの表情が曇る。
「まあ、そのあたりはお茶でも飲みながら。」
3人は家の中に入っていく。
「さて、まずはこれを。」
食堂でトーライト含め席に着き一息ついたところでアルが懐から手紙を取り出す。
「これはお前の家に行ったときに弟妹から預かった手紙だ。」
エルドは手紙をもらい、内容を確認する。
「遊びに来たいだってさ。手紙なんか寄越さずにいきなり来てもよかったのに。」
エルドは微笑みながら言う。
「それで、本命はこっちなんだが…まあ、お前の現状はトーライトさんから聞いた。だからこれは意味ないが一応渡しておく。」
もう一通手紙をエルドに差し出し、マリーにも別の手紙を渡す。
「王印…招集命令か?」
マリーが封蝋の紋章を見て言う。エルドは封を切り手紙を広げる。
「…なんだ、二つ名認定の招集か。僕ら以来の二つ名だね。」
エルドは手紙をたたみ机に置く。
「ああ。強制力はないただの招待状だ。ただ今回は少し状況が違う。」
「状況?どういう事だ?」
マリーがお茶を飲みながら言う。
「今回は認定じゃなくて襲名。過去の二つ名を引き継ぐんだ。」
「ほう、引き継げる二つ名はそう多くはないはずですがどの二つ名を?」
トーライトが面白そうに問う。
「『聖女』だ。どっかのシスターが襲名する。」
「聖女ですか。もう50年くらい聖女の二つ名は与えられてませんでしたな。」
トーライトが記憶を探るように言う。
「そう。具体的に何をしたのかは知らないが、相当な魔力を持っているらしい。そのため髪は光輝くほどの白髪だそうだ。」
アルはお茶をすする。
「白髪…」
マリーがつぶやく。
「どうかした?」
エルドが心配したように聞く。
「いや…まだ子供のころに光り輝くほどの白髪の人物にあったことがあったなと思って。といっても一度しかあってないし相手の性別も年齢もよくわからないからな。」
マリーは頭を振り答える。




