23.ダンジョンの主
「おっと、地震か?」
「なんかこれ、地面から出てくる感じじゃない?」
地面の方に目を向けると土が盛り上がり何かが出てきそうだ。
「これがダンジョンの主か?」
3人は構えて警戒する。土の中から現れたのは巨大なゴブリンだった。頭に包帯なのか布を巻き顔を隠している。
「デカ…ゴブリンキングってやつか?」
巨大なゴブリンを見上げながらエルドはつぶやく。巨大なゴブリンは叫びながら3人目掛けて拳を放つ。3人はその拳を難なくよけ間合いを開ける。
「とりあえず、倒しちゃっていいのかな?」
「魔力量だと大した強さは無いからこのまま生かしておいた方がいいんじゃない?」
ダンジョンへほかの魔物や魔獣が迷い込むことがあり、結果として周辺の安全が保たれるため、ダンジョンはよほどのことがない限り主の討伐は控えられている。
時々主以外の魔物が異常な強さを持つこともあり、主以外の魔物は定期的に討伐されることはあるのだが。
「それじゃあ逃げの一手か?でも出口はあいつの後ろだ。こんな狭いところじゃ動き回るのも面倒だぞ。」
巨大ゴブリンが出てきたため今いる空間が狭く感じている。実際どう走り抜けてもゴブリンの巨体に阻まれてしまうだろう。
3人で作戦会議を行うが、相手も悠長に待っているわけではなく合間合間に拳を放ってくる。普通のゴブリンなら何かしらの武器を持っているが、狭い空間の為か武器を振り回さないのはエルド達にしてはありがたいことだ。下手に武器を持っていられたら間合いが伸び、逃げ場が無くなっていただろう。
「とりあえず足元凍らせよう。」
そう言ってエルドはテンペラを地面に刺し、地面を凍らせ巨大ゴブリンの足を止める。巨大ゴブリンの足が止まったのを確認してマリーが跳び上がり巨大ゴブリンの顔を蹴り飛ばす。
巨大ゴブリンは足元の氷を破壊して転んでしまうが、腕を伸ばしマクラインを捕えようとする。
「あぶない!」
エルドはテンペラに魔力を流し、マクラインの足元から氷柱を発生させてマクラインが逃げる隙を作る。
マクラインは目の前に氷柱が出てきて驚いたが、すぐに気を取り直してその場から離れる。
巨大ゴブリンの手はマクラインではなく氷柱を握り壊してしまう。
「やっぱり魔剣はすごいな。」
マクラインはエルドの魔剣を見ながら言う。
「ん?なんか前戦った時と刀身の形が違くないか?」
「え?そんなことないでしょ。」
エルドはテンペラを見ながら言う。
「んん~?」
マクラインはじっとテンペラを見るが、やはり記憶と違う気がしてならなかった。
「危ない!!」
マリーが呑気にやり取りしている二人に向かって叫ぶ。いつの間にか巨大ゴブリンが立ち上がり、2人に殴りかかっていた。
「ちぃ!アースウォール!!」
マクラインが地面に触れ呪文を叫ぶ。2人の目の前に土壁が現れ巨大ゴブリンの拳を遮る。
「おぉ、無詠唱使えるんだ。」
エルドが感心したように言う。
「俺が唯一使えるやつだ。こんな時に役立つから重宝している。」
「冒険者のボスやってるだけあって実力はあるんだね。」
「お前にはコテンパンにされたがな。」
「だから危ないって言ってるでしょ!!」
また呑気に会話している2人にマリーが叱責する。マリーは再び殴りかかっている巨大ゴブリンの足を引っかけ転ばせた。
巨大ゴブリンが転んだ隙を見てエルドがテンペラを振り、氷の縄で巨大ゴブリンを縛り付ける。
「よし。これで逃げよう!」
エルドの合図でマリーとマクラインは出口に向かう。エルドが最後に出口に向かい、テンペラを振り、今度は青い炎で出口をふさいだ。
「一度ダンジョンを出よう。」
エルドは2人に声をかけ、3人は急いでダンジョンの外に出た。
「は~、やっぱり外の空気はいいな。」
エルドはテンペラを亜空間にしまう。
「なるべく主を討伐しない方針どうにかならないかね。」
「主がいることでほかの魔物なんかがダンジョンにおびき寄せられるんだからまあ無理でしょ。」
マリーは岩に腰掛ける。
「最後に炎で塞いだけど、洞窟なんだし酸欠になったりしないか?」
マクラインがエルドに向かって聞く。
「魔法の炎は酸素を燃焼させてるわけじゃないから大丈夫だよ。あの炎はどちらかというと氷を解かすために出したやつだからもうそろそろ消えてるはず。」
「へぇ…魔法の炎って普通の炎と違うんだな。」
マクラインは感心したように言う。




