22.ゴブリン
振り向いた先にいたのは子供ほどの背丈しかない緑色の肌の魔物、ゴブリンだった。暗がりで見えにくいが6匹ほどいる。
「結構知性はあるのか?こんなやり方する奴は初めてだ。」
「とりあえず、歯向かってくるか試して見るか。」
マリーは魔力を解放し、ゴブリンに向かって威圧を放った。2~3匹気圧されたようだがすぐに体勢を立て直し、武器を構える。
「逆に挑発してしまったような。普通ならこれで逃げ出すんだけど。」
「この立ち位置で逃げ出されて村に行かれたりすると困るから挑発できてちょうどいいよ。」
エルドは亜空間から普通の剣を取り出す。マリーは拳を握り、グローブの感触を確認する。
「それじゃあ、久しぶりにやりますか!」
エルドが言うのと同時にマリーがゴブリンに向かって跳び上がる。ゴブリンは飛び上がったマリーの方に注意を向け上を見た。
「ショット!!」
注意を上に向けたゴブリンに空気の玉を打ち出す風魔法をエルドが放つ。
風魔法の攻撃を受けたゴブリンたちはよろける。殺傷能力はあまりないため大した傷は負ってないが、ひるませるには十分の効果を発揮する。
マリーは拳を握り地面に向かって振り下ろす。着地と同時にその拳圧で3匹のゴブリンを吹き飛ばし壁にたたきつける。
エルドは残ったゴブリンが体勢を立て直す前に間合いを詰め、剣の一振りで残ったゴブリンの首を斬り落とした。
「知性はあってもやっぱゴブリンか。」
マリーは壁にたたきつけたゴブリンが絶命しているのを確認しながら言う。
「このやり方もたまたま偶然かもしれないね。とりあえず奥に行ってみよう。」
エルドは剣を亜空間にしまいながら言う。
ゴブリン1体の強さは大したことはない。村人1人でも1体なら簡単に倒せるほどだ。
だがゴブリンの怖さは集団で襲ってきたときに発揮される。今回はそのあたりを理解していた2人だから集団行動される前にひるませ、速攻で倒すことに成功している。
物語でも簡単に倒せるという位置づけのため、油断した冒険者や一般人のゴブリンによる犠牲者は年間で1000人を超えている。また被害者のほとんどは男女問わずゴブリンの巣に連れていかれ彼らの慰み者にされているために性豪な人をゴブリンのようだと形容することもある。
ちなみに、ゴブリンの犠牲者のほとんどは自ら望んでゴブリンの巣に入り、無防備な姿をさらしているというが、真実のほどは定かではない。
エルドとマリーが道を選び奥へと進むと今度は分岐点が現れ始めた。
戻ってきても大丈夫なように進む道に目印をつけながら進む2人。時折行き止まりになるため戻って他の道へ進む。
どれくらい進んだか、再び広い場所に出る。感覚的にかなり深いところまで来たように感じる。
「あ~。広いところに出て解放感。」
「ここも特には何も…エルド、あれ…」
マリーがあたりを見渡すと奥の方に椅子があり、誰かが座っているのが見えた。
「さて、このダンジョンの主かな?」
エルドは魔剣テンペラを取り出し、警戒しながら近づく。椅子に近づくにつれ、座っている人物は縛られ、口に布をかまされているのに気が付いた。そして、その人物をよく見ると…
「ん?マクラインか?なんで君がここに?」
縛られ座っていたのは最近見かけなかったマクラインだった。
「むご、むごご!むごむごごご!!」
「何言ってるかわからないわよ。」
「多分助けてくれって言ってるんじゃない。」
エルドはマクラインに近づき彼を縛っている縄を解く。
「は~、助かった~。」
口の布も取り外し、マクラインは一息つく。
「最近見ないと思ったら、こんなところで放置プレイ?随分ゆがんだ性癖だね。」
「誰がそんなことするか!!…いや、あながち間違いではないか?」
マクラインは首をひねりながら言う。
「間違いではないって…」
マリーは少し引きながら言う。
「それよりお前ら、ゴブリンには襲われなかったのか?」
「襲われたというのかはわからないけど、まあ戦闘はしたよ。6匹だけど。」
「あんたはあのゴブリンに捕まってたの?よく無事だったわね。」
マリーはきちんと服を着ているマクラインを見ながら言う。
「確かに俺はゴブリンに捕まったが、どうやら俺を献上するためだったようだ。」
「献上?」
「ああ、捕まって3日くらい経つが噂に聞いてたゴブリンどもの行動とは思えないからな。男女問わずヤル魔物って聞いてるからな。」
エルドは無傷のマクラインを見て納得する。確かに3日間なにもされてないのは献上しているからというのも納得だ。その献上相手がなぜ出てきてないのかが疑問だが。
そう思っていると洞窟内が揺れ始めた。




