21.ダンジョンへ
ギルドの前に2人が着くと馬車は出発の準備中だった。ヨーレインと御者が打ち合わせをしているのが見える。
「馬車って魔獣馬車か。」
マリーは馬車に繋がれた馬魔獣を見ながら言う。馬魔獣は普通の馬の10倍以上の馬力をもち、手なずけることが出来る数少ない魔獣である。
乗合馬車など大型の馬車を引くのに最適で、特に領地間を行き来する乗合馬車には必須となっている。
「まあ、これから向かうのがダンジョンだからね。どれくらいの影響があるかわからないけど、普通の馬だとおびえて近づけないでしょ。」
普通の馬とは違う、うろこ状の皮膚をなでながらエルドが言う。
「もう影響が出てるかね?」
「可能性はあると思うよ。まあ、どれくらいの規模かにもよるけど、そのあたりも調査しないとね。」
そう話しているうちに御者が準備を終え、御者席に乗り込む。
「ああ、エルドさん。それと確かマリーさんでしたね。」
ヨーレインは2人に気づき声をかけてくる。
「おとなしいとはいえ、魔獣をなでることが出来るなんてすごいですね。私は近づくのさえ怖いのに。」
「襲ってこなければ、普通の馬と変わりないよ。それに獣に上下関係教えるには魔力で威圧すれば簡単にできるし。」
マリーが言う。
「うん。まあそうなんだけどね。普通の人はそう簡単にできることではないと思うよ。」
エルドが呆れたように言う。ブルルっと馬魔獣が唸り首を振る。
「行先ですが、昨日エルドさんにお伝えした通り北の山岳ですが、馬車ではその手前の村まで行ってもらいます。
その村から少し歩いたところにダンジョンの洞窟があるそうなので詳しくは村の人に聞いてください。」
「わかりました。」
ヨーレインにそう言ってエルドとマリーは馬車に乗り込み、出発する。
早朝出発した馬車は昼を回る前に目的地の村に到着した。
「思ったより時間がかかったな。」
馬車で寝ていたエルドは目をこすりながら降りていく。
「あんたは寝てたから知らないだろうけど、賊に遭遇しないように回り道したんだからしょうがないだろ。」
「へぇ。別に回り道しなくても魔獣とマリーがいれば簡単に突破できそうだけどね。」
そんなことを言うエルドにマリーも御者もため息をつく。
「まったく。一般人がいるんだから安全策をとるのは定石でしょう。」
御者は2人を降ろすと休むことなく引き返していった。
「さて、ここからどれくらい近いのかわからないけど魔物がいる気配はここからでもよくわかるね。」
エルドは体を伸ばしながら言う。
「まずは村長あたりに話を聞いてみようか。支部長もそんなこと言ってたし。」
2人は村に行き、詳しい状況を聞いてみる。
村長の話ではダンジョンはこの村から割と近くにあるが、今のところ魔物や魔獣がダンジョン内から出てくる様子はないとのこと。
今残っている村の住人は魔物相手でもそれなりに対処できる住人で、できない住人は別の村へ一時避難しているとのことだった。
エルドとマリーは早速ダンジョンへと向かうことにした。
「思った以上に村の近くにダンジョンがあるな。いくら中から魔物も魔獣も出てこないとはいえ、のんびりしないで昨日のうちに来てた方がよかったかもね。」
洞窟の入り口にたどり着くとエルドがあたりを見ながら言う。
「支部長や村長が緊急性はないって判断したんだから別によかったんじゃない。」
マリーは落ちている石を拾い上げ、ダンジョン内に投げ入れる。石が中で跳ね返る反響音が聞こえてくる。音が収まってしばらく待ってみたが、特に何かが出てくる様子もない。
「ダンジョンが深いのか、警戒心が薄いのか。中に入って調査始めるしかないか。」
エルドが魔法の光を放ち、先頭でダンジョンに入る。マリーもあたりを警戒しながらエルドに続く。
ダンジョン内は分岐がない一本道だった。どれだけ進んだか魔物と遭遇することなく広い場所に出る。
「気配はあるけど、襲ってくることもないのはなんでだ?」
エルドはあたりを照らしながら言う。入ってきた道以外に数か所進めそうな場所がある。
「どこから進んだものか。」
マリーは外で拾った石をそれぞれの道に投げ入れ様子を見る。反響音はするが特に何か出てくる様子もない。
「ダンジョン内だから魔力が満ちて正確な検知が出来ないし…」
エルドは入ってきた道を振り返る。
「…どうやら、ここで戦闘するから待っていたみたいだ。」
「え?」
エルドの言葉にマリーも振り返った。




