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20.酔っての誘い

「あ~…まさかあれが置いてあるとは予想外だった。」


 エルドはマリーを背負い帰路に着く。


「も~!私は酔ってないって言ってるでしょ!!まだ飲める!まだ飲めます!!」


 かなり酔っているマリーがエルドの背中で暴れていた。


 マリーは酒にはかなり強い。だけどもたった一つ、マリーが好きな果実の入った酒だけは通常の3倍以上のペースで飲んでしまい、さらに量も自制が利かなくなって浴びるように飲み続けるため酔ってしまう。


「暴れるな。すぐ着くから。」


 エルドはマリーが好きな果実であるオレシアの実を、男が3人は余裕で入る大樽いっぱいの量を1日かからず食べつくしたときのことを思い出す。


 普段は冷静に構えているマリーの赤い瞳が輝いていたのは後にも先にもあの時だけだったと記憶している。


「まだ時期じゃないと油断してた。こっちは寒いからこの時期でも実ってるんだ。」


 今いる領地はリュトデリーン王国の北東に位置する。エルドの出身地はリュトデリーンの中心、中央都に南東に隣接した領地だ。


 オレシアは割とどこでもできる果実だが、寒くなり始めたころに花が咲きすぐに実になる果実のため北に行くほど早く食べられるのを失念していた。


「ねえ~、もっとオレシア食べたい~。」


 酔いも回って普段と違い甘えてくるマリー。エルドに抱き着き体を密着させる。


「もうないから我慢しろ。」


 暴れるマリーをなだめつつ家に到着した。階段を上がりマリーの部屋でベッドに寝かせる。


「水持ってくるからおとなしくしてなよ。」


「うぇい。」


 一度台所に行き水を持ってマリーの部屋に戻った。


「ほら、飲める?」


「大丈夫。」


 マリーに水を手渡し様子をうかがう。常人なら泥酔どころか生死の境をさまよっているレベルの酒を飲み干している。いくらマリーでもと思ったが見たところ心配はなさそうだ。


「は~。飲んだ飲んだ。」


 水を飲み干しコップをエルドに手渡す。


「明日から忙しくなるから早く寝なよ。」


 コップを受け取りながら言う。マリーを見るとなんだか不満そうな表情をしてエルドを見ている。


「どうかした?」


 何事かと思い聞いてみる。マリーは手招きして自分の隣に座るように促す。エルドはコップをテーブルに置きマリーの隣に座る。


「だいじょぉぉ!?」


 声をかけると同時にマリーに押し倒されてしまう。


「マリー、いくら何でも悪酔いが過ぎるよ。」


「エルド…久しぶりに二人っきりになれたのに何もしてくれないの?」


 マリーは酔ってはいるが真剣な表情でエルドを見る。


「いや、明日だって早いし。」


「何言ってるの、昔は毎日毎晩、それこそゴブリンのようにしてたじゃない。」


 そう言われてエルドは苦笑する。


「ゴブリンって、また言い得て妙な。」


 エルドはマリーの頭に手をまわした。


「こういうのは素面の時に言ってほしいな。」


「し、素面だと恥ずかしくって言えない…」


「ははは、確かに。」


 エルドはそっと、マリーを自分の方に引き寄せた。




 翌朝、マリーが目を覚ますとエルドの寝顔が目の前にあった。


 しばしなぜエルドがそこにいるのか考え、昨夜のことを思い出す。


「あぁ…やっちゃった…」


 マリーは体を起こし、頭に手を当てる。


「んん…さむ…」


 布団がめくれ冷気にさらされてエルドが目を覚ます。


「おはよう。」


「おはよう…昨日は…」


「まったく、ああいう誘いは素面の時にしてもらいたいね。」


 マリーの頬に軽く触れ、エルドは微笑む。


「むぅ…それはさすがに…」


 恥ずかしいと言おうとする前にエルドはベッドから降りた。


「さ、早く準備して出よう。」


 エルドは床に落ちた服を拾い上げ、いつもと変りなく準備を始めた。


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