19.気分転換に討伐依頼と酒と
「それで、支部長は何の用だったんだ?」
マリーは気分を切り替えようとエルドに聞く。
「あぁ。指名依頼だって。ダンジョンの調査。」
「ダンジョンね。そういえば絡んできた男達もダンジョンの事話してたな。」
マリーが受付での出来事を思い出しながら言う。
「へぇ。もう噂になっているんだ。もしかしたら依頼受けてないのにダンジョン潜ってるやつもいるかもね。」
「その辺は自己責任だから何でもいいけど、ダンジョン行って死体処理とかしたくないよ。」
マリーは眉をひそめながら言う。
「まあ確かにね。無謀者がいないのを願うしかないよ。」
エルドは肩をすくめながら言う。
「とりあえず明日馬車を用意してくれるっていうから今日は軽い依頼でもするか、明日に備えて休養するか。」
マリーはため息をつく。
「もう少し体を動かしたい。なんか討伐依頼があればそれがいいかな。」
「わかった。受付で探してみよう。マリーが依頼を受けたほうがそこそこ体を動かせる依頼があるかもしれないね。」
受付に行くとソフィアがカウンターで書類の整理をしていた。
「もう誰もいない。冒険者が少ないってのは正しそうね。」
「そうだね。この広さでこの閑散ぶりはなかなか悲しいものがあるね。」
マリーがカウンターの前に立つ。
「依頼を見せてほしい。できれば討伐系の。」
「はい。ではこちらにレコード媒体をかざしてください。」
ソフィアはマリーにタブレット水晶を差し出す。マリーはそれに右手をかざした。
「あ、右の腕輪に媒体付けたんだ。いつの間に。」
やり取りを見ていたエルドが口をはさむ。
「向こうじゃ2年くらい前からこれだったからね。さすがに面倒で付け直したよ。」
「僕も早くいい腕輪でも見つけるか。」
エルドは自分の首に下がっている導き石を触りながら言う。
そんなエルドを見てソフィアは口元を抑えて笑いをこらえている。
「ど、どうしました?」
疑問に思い聞いてみるエルド。
「いえ、エルドさん、最初は冒険者っぽい粗暴な口調だったのに最近は少し丁寧というのか違う口調になっているのがおかしくて。」
「ああ。こいつは上流家庭の出だから素は今の方だよ。」
マリーが依頼を選びながら言う。
「あら、そうだったんですね。別に今の口調でも冒険者としては問題ないと思いますけど。」
「中央都じゃなんだかんだと丁寧な口調じゃ絡まれたからね。」
「へぇ。中央都の方が丁寧な口調で話しているイメージですね。」
「街がデカすぎるんだ。それこそ上流から下流まで幅広い。それで下流が成り上がるには冒険者が一番手っ取り早いからね。」
マリーは遠い目をしながら言う。そんなマリーを呆れたようにエルドは見ている。
「それじゃあこれにしようかな。」
マリーは依頼を選び契約する。
「西の森で猪魔獣の討伐1体ですね。よろしくお願いします。」
ソフィアは立ち上がり二人に頭を下げて見送った。
2人は西の森へと足を運んだ。森の中でエルドがいつも通り茂みをつつきながら猪魔獣を探しているのをマリーはあきれた表情で見る。
「そんなやり方だと余計な魔獣を相手しないといけなくなるから弱い魔力を察知できるように訓練したほうがいいっていつも言ってるでしょ。」
「いや~。魔力察知の訓練は時間かかるしこの辺の魔獣はそんなに強くないから僕はこっちの方が効率がいい。」
そう言っているうちに藪の中から猪魔獣が現れ、エルドに向かっていく。
マリーは猪魔獣を認知するとエルドの前に立ち猪魔獣を片手で押さえつける。
「大きさは問題ないかな?」
「いいくらいじゃない。毛皮が欲しいらしいからあまり傷つけないようにね。」
マリーが猪魔獣を一度突き放し、再度向かってきたところを蹴りつけおとなしくさせた。
「さすが。」
エルドは猪魔獣が絶命しているのを確認し亜空間を広げ中に入れる。
「結構重量あるな。受付で出すと邪魔になりそうだから裏に持っていくか。」
エルドが亜空間の入り口を閉じているとマリーは集中し、あたりをうかがっている。
「何かいる?」
「猪魔獣が3体と…兎魔獣が8体…兎はおびえて隠れているから気にしなくていいと思う。猪が…」
マリーが視線を向けると茂みから猪魔獣が3体飛び出してきた。エルドは向かってきた猪魔獣をよけ、魔剣テンペラを取り出す。
「魔獣にテンペラを使うのか?」
「足止めだけ。」
そう言ってテンペラを地面に刺す。するとテンペラの刺さった部分から凍り始め、猪魔獣の足元まで一直線に氷の範囲が伸びていき、猪魔獣の足が凍って動かなくなる。
「それじゃあ後はよろしく。」
マリーは猪魔獣に向かっていき、それぞれ1撃で仕留めた。
討伐した魔獣をギルドに持ち帰り、裏手にある解体場でソフィアに確認してもらって依頼を達成する。
買取として引き渡した3体の猪魔獣は思いのほか高値で引き取ってもらえた。エルドはマリーにギルドに併設されている酒場に誘う。
「どうせまだイラついてるんでしょ?少し飲んでいこうよ。」
「ん…まあいいか。」