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180.婚姻の儀

 寒い時期も過ぎ雪も解けたうららかなある日。ライナス領に新しい教会が出来てその披露会を兼ねた婚姻の儀が行われると聞いて町中の人が外で中に入るのを待っていた。


「ちょっとちょっと~。町中の人に見せるなんて聞いてないよ~。」


 モイラは窓から外の様子を見ている。1週間前にライナス領に帰ってきてすぐにエルドから婚姻の儀をするからと言われマリーとモイラはドレス選びや進行の確認で忙しかった。ライナス家が手配してくれたメイドたちには感謝しかない。


「多分お兄様の事ですから、『ああごめん、言い忘れてた。』か『それに関しては僕も聞いてなかった。』って言うのが目に見えます。」


 マリーの髪をすきながらミレニアはエルドの声真似をして言う。割と似ていたためにマリーは笑ってしまった。


「知らなかったって方が正解じゃないかな。領主やってたけどたまに状況把握してないことがあるのよ。」


「そうなんですか。私はあまりお兄様のお仕事の様子を見ていませんでしたから知りませんでしたわ。これでいいですわ。でもマリーお義姉様、せっかくの婚姻の儀なのにいつもの髪形でいいんですか?」


 マリーは鏡を見て確認し満足げに頷く。


「別にドレスに合わないわけじゃないし、やっぱりいつも通りの私でいたいから。」


「わかりましたわ。それではモイラお義姉様、髪型を整えますのでこちらに。」


 モイラはまだ納得してない表情で鏡の前に座る。ミレニアは丁寧に髪をすき始めた。




「エルド兄さま、そろそろ準備しないと婚姻の儀が始まりますよ。」


 ジェイロットがソファーで眠っているエルドをゆする。


「ん~…ああ、ごめんごめん。こっち帰ってから寝不足気味でさ…」


 エルドは横になっていたソファーから起き上がり顔をこする。


「忙しいのはエルド兄さまが義姉さま方に秘密にしていたからでしょ。それくらい我慢してください。」


 忙しかったのは忙しかったが、普通にしてたら眠れないほどじゃないんだよなとエルドは思いながら顔を洗う。


「ん…ジェイロット、背が伸びたか?」


 婚姻の儀用の正装を並べていたジェイロットの頭に手を置いてエルドが聞く。


「解りますか!じつはそうなんです!僕も早くエルド兄さまぐらいの背になりたくて色々やっていたのが…」


 ジェイロットと同じ年頃にはエルドはもう少し背が高かったなと思い出し、それを言うのははばかられたので口を閉ざした。


 着替えの終わったエルドは亜空間から2本の剣を取り出し腰に据える。


「見た目に問題はなさそうだね。」


 エルドは姿見の前に立ち剣の位置を調整する。2本の剣の収まる鞘は、マリーが作ってくれた革製でモイラがそれぞれの銘を刺しゅうで入れてくれていた。


「はい。いつも以上にかっこいいです。」


 エルドはジェイロットの頭を撫でて部屋を出た。




 前室でエルドとジェイロットが待っているとミレニアが2人を連れてやってきた。


「お待たせしました。お兄様、後はお願いします。」


 そう言ってミレニアとジェイロットは廊下を走り別の場所から中に入るために行ってしまう。


「ね、ねえエルド…どうかな?」


 マリーがエルドの左側に移動しつつ聞いてくる。


「とても綺麗だよ。」


 エルドは腕を差し出しマリーは手を添える。


「じゃあ私は?」


 モイラは右側に立つ。


「マリーの次には綺麗かな。」


「またそういう意地悪言う。」


 エルドは腕を差し出しモイラは手を添えた。普段なら背が合わず上手くできないが、今日はかかとの高いヒールを履いているためギリギリおかしくないように見える。


 目の前の扉が開き中にいる人の目が一斉に3人に向いた。親類や友人、これまで世話になった人たちが並んでいた。


 3人はゆっくりと歩きだす。


「ねえ、なんで普通のやり方じゃなくてこのやり方にしたの?」


 歩きながら小声でモイラが聞いてくる。


「気が付かなかった?これはマリーが一番やりたがっていた方法だからだよ。ね、マリー。」


 エルドも小声で答える。それを聞いたマリーは笑顔のまま表情がこわばった。


「な、なんでそれ…」


「ゴシップ紙はちゃんと片付けないとね。マリーが読み込んでいたページぐらい簡単にわかるよ。」


「ああ、あのゴシップ紙…」


 モイラはマリーが付箋をつけて保管してあるゴシップ紙を思い出した。普段はマリーの亜空間にしまってあるがたまにテーブルやソファーに出しっぱなしになっていた。エルドはそれを読んだのだろう。


「でもこのやり方のところには付箋とかなかったけど…」


「長い付き合いだからよくわかるよ。マリーが気に入って読み込んでいるところは他のページと折れ方が違うんだから。」


 マリーの顔が赤くなっていく。


 3人は立会人を務める神官のヤロルクの前に着いた。ヤロルクは祝福の言葉を唱える。


「では3人とも、契約の石を出してください。」


 3人は腕を出し、石のついた腕輪を見せる。そして重ねた。


「マリー、モイラ…僕は自分勝手だからこれからも苦労をかけることも有ると思う。だけど、2人の事は絶対に守るから…これからもよろしく。」


「そうね。私もわがままなところもあるし嫉妬深いところもある。でも誰よりもエルドを愛していると断言できるわ。」


「あら、エルドを誰よりも愛しているのは私の方だからね。私は2人の仲を引き裂こうとした悪女。エルドの愛だって独り占めしちゃうんだから。」


 3人は笑い、重ねた腕輪が光り輝く。ヤロルクが水晶を取り出し確認する。


「これで3人は女神アレアミアの名の下に夫婦となったことを確認しました。皆様、祝福の祈りをお捧げください。」


 招待客の全員が軽く頭を下げて祈りをささげる。


 アレアミアの名前を聞いて3人は微笑む。この教会はこの地の守護の女神にちなんでアレアミア教会と名付けられていた。そして3人を青白い光が包み込み景色が変わった。。


「あら、ここって…」


 エルドがあたりを見渡すとアレアミアが浮かんでいた。


「女神アレアミアの名の下に祝福を…なんてね。あなたたちが結婚するって聞いて呼び出しちゃった。」


 アレアミアは降りてきて3対の翼をたたむ。


「アレアミア様!」


「何も式の最中に呼び出さなくてもいいのに。」


 マリーとモイラは驚きと呆れの表情を見せる。


「僕とはもう会わないんじゃなかったの?」


「あなたに会いに来たんじゃないわ。私はこっちの二人にお礼も兼ねた祝福を与えに来たの。」


「へー、何の祝福?」


 エルドはつまらなそうに聞く。


「なんのとは言わない方がいいかもね。でもこれからあなたたちに必要になるものよ。」


 アレアミアはマリーとモイラの手を取って呪文を唱える。マリーとモイラは体中が暖かくなるのを感じた。


 アレアミアが施したのは子宝の祝福。あくまで少しだけ恵まれやすくなるための祝福だった。


「これでいいわね。マリー、モイラ、おめでとう。あんな子供っぽい相手だと苦労が多いだろうけど頑張ってね。」


「う~ん、この言われよう。僕には本当にないんだな。」


「あら、お礼ならもうあげたじゃない。」


 アレアミアは唇に指を添えて言う。


「え?どういう事?」


「まさかエルド…アレアミア様と…」


「え?あれってそういう…」


 そこまで言ってエルドは口を押えた。アレアミアにされたことは2人に話していなかった。


「家に帰ったら何があったか聞かせてもらわないとね。」


「ずるいよエルド、アレアミア様の相手にするなら私も呼んでほしかった!」


「いやね、君たちが思っているようなことではないことは確かだよ。」


「あなたがそうだと思ってなくても私はどうだったかな~。」


 アレアミアが面白そうに言う。


「もうこれ以上面倒なこと言わないで。」


「それじゃあ冗談もこれくらいにしてそろそろ帰さないとね。魔力が完全に戻って権限が増えたけど、流石に3人同時に呼んで祝福を与えるのが精いっぱいだから。」


 3人を光が包み始める。


「じゃあね。今度こそ本当にお別れだから…」


 アレアミアは愛しいものを見る目で3人を見送った。そして完全に見えなくなった後、一筋の涙を流しす。


 元の教会に戻ってきたエルド達があたりを見渡せば、まだみんなは祈りをささげて下を向いている。ヤロルクだけは3人が消えて戻ってきたのを見たらしく目を丸くしていた。


「おほん…頭をお上げください。では3人とも、外の皆様にも見てもらうために出ましょうか。」


 そのままヤロルクが先導して3人は外に出る。外では町の住人が今か今かと待っていた。扉が開いて3人が姿を見せると歓声が上がった。エルドが見渡すと食堂の店主や依頼をしてくれた人、ジェイロットと遊んでいた子供も見える。


「もうここが、僕たちの住む場所なんだね。」


「そうね。ここから追い出されるようなことはしないでよ。」


「私は2人がいるところだったらどこでもついて行くから追い出されても大丈夫だよ。」


 不穏なことは言うなよとエルドは笑い、マリーとモイラもつられて笑う。


 エルドはこれまであった出来事を思い出しながらこれからの幸せに思いをはせた。


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