18.指名依頼
3人は家を出るとギルド方面へ向かい、そこでトーライトは2人と別れた。エルドとマリーはそのままギルドへ入っていく。
「珍しく並んでいるな。」
いつもより遅い時間に来たとはいえ、受付前に3組ほど列をなしている。
「これで並んでいるんだ。よっぽど依頼がないの?」
月一とはいえ定期的に冒険者として活動していたマリーは人の少なさに驚いている。
「いや、割と仕事はあると思うよ。ここで活動している冒険者自体が少ないのかもね。」
「なるほどね。」
1組受付業務を済ませたソフィアがエルドに気づく。
「あ、エルドさん。支部長が来たら部屋に通してくれって言ってたので、申し訳ないですけど支部長室に行ってもらっていいですか?」
「支部長が?わかった。」
「私は残ってギルド登録してもらってるから。」
活動場所を移した際は最寄りのギルドで所在地登録を行わないといけないため、マリーは受付に残った。
エルドは前に案内された記憶を頼りに支部長室へ向かう。
支部長室の扉をノックして中に入る。
「あぁ、エルドさん。お呼び立てして申し訳ない。」
「いえ、ちょうど来たところでしたから。」
ヨーレインに進められてソファーに座る。
「今回はエルドさんに直接依頼をお願いしたいんですよ。」
「指名依頼ですか。内容は?」
「少し北に行った山岳にダンジョンが発現したようなんです。それでそこの調査と危険なようなら主の討伐をお願いしたいのです。」
「ダンジョン…ですか…」
ダンジョンとは魔物がに住み着き巣窟と化した場所である。一度ダンジョン化した場合、よほどのことがない限り外に魔物が出てくることはないと言われている。
だからと言って放っておいて魔物が人里に攻め込んできた時に対処できないと困るのでダンジョンが確認されたら冒険者に依頼が入るようになっている。
「こちらが報奨金の額になります。それとCランクへ昇格も報酬として考えております。もちろん報告書による危険度を鑑みてですが。」
エルドはCランク自体に魅力を感じはしないが、マリーとランクをそろえていた方が何かと都合がいいと思い依頼を受けることにした。
「ダンジョンのある場所は歩いていくには少し面倒なのでこちらで馬車を用意します。明日には準備ができますのでそれを使ってください。」
ダンジョンの調査は何をおいても急いで行わないといけないため、ギルドもかなりの融通をきかせてくれる。
「ありがとうございます。」
エルドは契約を行い支部長室を出た。受付に戻る途中、廊下から外を見ると訓練場が見える。よく目立つ赤毛が数人を吹き飛ばしているのが見えた。
「…どう見てもマリーだよね…相手はマクラインの部下かな?マクラインはいないみたいだけど。」
エルドが女神の契約を行った後からマクラインの姿を見ていなかった。部下は依頼を受けるためによく見かけていたが。
「魔力差がありすぎてマリーの力量を読めなかったのかな。かわいそうに。」
魔力量の差が大きくなるとお互いに相手の魔力を検知しづらくなる。訓練で感知の技量を上げることが出来るが、マリーは髪と瞳に色が現れるほどの魔力を保有するため、一般人では魔力の検知が出来なくなる。そのため、逆に魔力がないと勘違いする奴が時々現れる。
「多分あいつらもその口だろうな~。髪と瞳に色が出てるんだから魔力量が多いってわかるだろうに。」
そう呟きながら訓練場に向かう。
「で、誰の魔力がカスだって?」
訓練場でマリーが1人の男を踏みつけながらほかの男ににらみを利かせていた。
「ひぃぃぃぃ!こいつも化け物だ!!」
「に、逃げろ!」
「ま、待って…助けてくれ!!」
マリーに踏まれている男を放って逃げ出していく男達。
「気が済んだ?」
踏みつけていた男を逃げていく男達に蹴り飛ばしたマリーに声をかける。
「あんまり。魔力がないって難癖付けられるのも久しぶりだからね。」
マリーはいら立ちを抑えながら言う。
「僕と一緒だったらあまり言われなかったからね。」
エルドはマリーと出会った学生時代を思い出していた。