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179.閑話 モイラの家族

 モイラは中央都のカフェで人を待っていた。今日はエルドがいないしモイラも個人的な用を入れたらマリーがつまらなそうな顔をしていたのを思い出して笑ってしまう。マリーは自分の表情は硬く他人に読み取らせないと思っている節があるが最初に会った時から表情豊かに見えた。エルドにこっそり聞いたら、確かに学院時代は表情が硬くて読み取るのが困難だったと教えてくれた。


「お待たせモイラ。何笑ってるんだ?」


 神官服に身を包んだヤロルクが目の前の席に座る。


「別に。ちょっと思い出し笑い。」


「そうか。まだ時間あるから俺も何か注文するかな。」


 ヤロルクはコーヒーを頼んだ。


「エルドさんたちは元気?北の前線に行ってたって聞いたけど。」


「私がいるんだから傷一つ無いわよ。本当に2人には感謝してほしいわ。」


 ヤロルクはコーヒーに口をつける。


「本当かよ。どちらかというと二人に迷惑かけてんじゃないのか?モイラは結構そそっかしいから。」


「そんなことないもん!私の方が年上なんだからお世話してるのはこっち!この前だって…」


 しばらくモイラののろけ話が続く。


「そういやモイラ、アフテディ教会が取り潰しになる話、聞いたか?」


 それを聞いてモイラの表情が暗くなる。


「もちろん…私、また実家が無くなっちゃうんだね…」


 前神官総長が修道士を集めやすくするために教会を急激に増やしていたというのが調査してわかった。今回特に人が少ない教会は取り潰されることになり、アフテディ教会もその対象になってしまった。


「そうだな。だけどこれからは新しい家族が出来るんだ。気を落とすなよ。」


 ヤロルクのその言葉にモイラは笑顔を見せた。


「そうだね。教会が無くなったくらいでへこたれてなんかいられないよね。」


 モイラは目元を拭って気合を入れる。


「ヤロルクの方はどうなの?大教会で神官の見習い始めたって聞いたけど。」


「まあ何とか。前神官総長の信者たちが多数いていろいろやらかしてくれて神官の数も足りないからって言うんで見習いになったけど、やることは案外アフテディ教会でやってたのとあまり変わらないから苦労は無いかな。」


「それならよかった。今までとあまり変わりないなら見習いじゃなくなる日も早いかもね。」


「そうだといいな。」


 ヤロルクは時計を出し時刻を確認する。


「そろそろ時間だ。行くか。」


 モイラは頷き2人はカフェを出た。




 2人が向かったのは中央都にある病院。そして面会申し込みをして厳重な扉を通り、ある病室の前で立ち止まる。


「本当にいいのか?話しなんかできないだろうけど…」


 ヤロルクは扉に手をかけてモイラに問う。


「俺は…あいつを許す気はない。どんな理由であれモイラを弄んだんだから。」


「ありがとう。でも彼も家族だから。」


 ヤロルクの言葉にモイラは微笑んで返す。ヤロルクはため息をついて扉を開けた。病室の中にはベッドが一つあり誰かが寝ている。モイラはベッドの横に立った。


「オルファ…わかるかな?私、モイラだよ。」


 寝ている人物、オルファに声をかけても目を覚ます気配がない。


「医師の話によると、このまま目覚めなければもう数日も持たないらしい。魔力の枯渇が激しくて自分で回復も出来ずにほとんど空だそうだ。」


 モイラは魔剣ヒーリングを立てかけオルファの手を握る。


「一度だけ、一度だけあなたに魔力を送ります。それでも目覚めたくないというのならあなたの意思を尊重してこのまま…」


 モイラは握った手から魔力を送り込む。モイラとしては微々たる量だがオルファには十分な量のはずだ。しばらくオルファの様子を見ているとあきらかに魔力が減っていくのがわかる。それを感じてモイラは目を伏せる。


「ごめんなさい、オルファ…私はあなたを救えなかった…」


 オルファから手を放しヒーリングを持って病室を出る。


「もういいのか?」


 部屋の中からヤロルクが声をかけてきた。


「ええ。助かりたいと思わない人には何をやっても無意味だから…」


 モイラは振り返ることなく病室を出て歩き続ける。ヤロルクもそれに続いた。


 2人が出て行った病室の中でオルファは涙を流し、数日後息を引き取った。




「それじゃあ俺はこれで。また何かあったら連絡くれれば時間を作るよ。」


「ありがとう。次呼ぶとしたら私の結婚式かな~。」


 モイラは表情を無理やり作り明るくふるまう。


「お、そんな予定があるのか?」


「まさか。これまで忙しかったから全く話なんかないよ。もしかしたら婚約して1年になるのも忘れてるかもしれない。」


 ヤロルクはまさかと笑い飛ばしたがモイラはあり得るのよと肩を落とす。


「まだ何も言ってないんだ…」


 ヤロルクはぼそりとつぶやく。


「何か言った?」


 落ち込んでいたためヤロルクの言葉が聞き取れなかったモイラは聞き返す。


「いや、エルドさんも適当な人だな~って。それじゃあまたな。」


 そう言ってヤロルクはモイラに背を向ける。


「うん、またね。」


 モイラも振り返り宿への道を歩き始めた。


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