177.閑話 エルドの墓参り
エルド達が帰国して1ヵ月、エルドはトーライトを連れてファニアール領の墓地に来ていた。
「まったくアルのせいで報告に時間がかかってこんな寒い時期にここに来ないと行けなくなるんだから。」
「そのおかげで私はぼっちゃまに同行できたのですからありがたいものです。私も長い間お嬢様の墓参りには行けてなかったですから。」
「まあいいけどさ。流石に一人じゃここに来るのは面倒だものね。」
「それよりもぼっちゃま、サンドレア様やジェイロット様に何も言わずに来てよかったのですか?お二人ともとても心配してましたよ。」
「いいんじゃない。2人に声かけるといろいろ面倒なことになるし。トーライトが余計なことを話しそうだし。」
「余計な事とは心外ですな。ぼっちゃまがまだ話したくないのは北の前線に言っている間に行わせていたあのことですよね?このトーライト、命に代えてもぼっちゃまの秘密は守りますとも。」
「わかっているなら口を閉じてほしいな。」
エルドは墓地内を歩き両親の墓標の前に立つ。ポケットから小瓶を出して母親の墓標の前に置いた。
「母さん、ありがとう。このペンダントは母さんに返すよ。もっとも中の魔力は使っちゃったけど。」
小瓶の中にはひび割れた導き石が入っていた。
「父さんはこれ。飲みかけで悪いけど父さんが飲みたがっていた女神の酒。…トーライトも飲む。」
「え、では…お言葉に甘えて…」
女神の酒という言葉を聞いてからトーライトがそわそわしだしたのをエルドは感じた。亜空間からコップを2つ出し酒を注ぎ、1つをトーライトに渡した。そして残った瓶を墓前に置く。
「ふむ、これはなかなか…」
「大して美味しくないでしょう。最初に作られたものだからか、どこかで保管の仕方が悪かった時期があるのかわからないけど、この程度の味なら今も安く手に入るし。」
「さ、最初に作られた…そんなお酒を…」
トーライトは驚愕しより味わって飲み始める。
「そんな味わうものじゃないって。」
エルドはコップの酒を飲み干す。
「さて…」
エルドはもう一つ並んだ墓標の前に立つ。
「義母さん…ありがとうございます。僕はあなたの教えのおかげで生き延びることが出来ました。」
エルドは膝をつき首を垂れる。
「あなたが僕を息子として受け入れてくれたから僕はひねくれることなく来れました。ありがとうございます。」
それを聞いていたトーライトが笑いをかみ殺している。
「ぼっちゃまはどちらかと言うとひねくれている方かと…」
「そうだとしたらトーライトの教育のせいかな~。」
エルドは目を据えてトーライトを見る。
「あはははは。まあそれじゃあ帰りますか。」
トーライトは慌てて言う。
「そうだね。でも少し待って。」
エルドは両親の墓前に置かれた物を持ち上げ凍らせて再び墓前に置く。
「またそんなものを作って。ぼっちゃまの作る氷像は溶けないんですからほどほどにしてください。」
「ここで風化させるよりかはいいでしょ。」
エルドは両親に似せた氷像を見てほほ笑んだ。