176.後始末
魔王討伐から一週間が経過した。エルドは北の前線の砦の屋上に上がってきた。アルが草原を眺めていた。
「あれ、アルもここにいたの?」
「ん、ああエルドか。もう部屋から出ていいのか?」
「さあ。2人がいないから抜け出してきた。」
エルドは砦に戻ってからモイラに安静にしているように言われ部屋に軟禁状態だった。もっとも夜は安静にしていたかどうかは何とも言えない。
「流石に一週間も閉じ込められると体がなまりそうだよ。」
「そうか。じゃあそろそろ帰るんだな。」
「そうだと思うけど今回そのあたりはマリーとモイラに任せようと思ってるからね。無理すると怒られるし。」
「はは、尻に敷かれてるな。」
「2人だから重いのなんのって。」
それを聞いてアルは笑い、エルドもつられて笑う。
「それじゃあ帰る日が決まったら教えてくれ。…俺も一緒に帰るからな。」
「陛下に報告か、大変だね。あれ?でも…アル一人なら1週間もあれば往復できるよね。たしか駿馬の魔獣馬がいるって言ってなかったっけ?」
「今回は俺だけじゃなくてレイラも連れて行くからな。」
「へえ、司令官と副司令官が同時に居なくなってていいの?」
「ま、まあ今回は一緒に居てもらわないと困るからな。」
「そうなんだ…ああ、なるほどね。」
エルドがアルの顔を見ると赤くなっていた。
「マリーとモイラがレイラになんかちょっかいかけていると思ってたけどそういう事だったのね。まあ落ち着くところに落ち着いた感じでいいんじゃない。」
「と、ともかく帰る日が決まったら教えろよ!」
そう言ってアルは砦の中に入っていった。
「恥ずかしがらなくてもでもいいだろうに。」
エルドはアルが砦に入っていくのを見送って中央の見張り台に足を運んだ。
「あ、やっぱりいたいた。アレアミア。」
見張り台のてっぺんに登るとアレアミアが見張り台内にあった椅子に座っていた。その手には折れた鎌を持っている。
「エルド…何か用?」
「用ってこともないんだけど、モイラが姿が見えないって心配してたから。」
「そう…」
エルドは空いていた椅子に座る。
「やっぱりこんなところに置いてある奴だから座り心地が悪いね。」
「ええ…」
エルドが何を言っても空返事で返すアレアミア。
「…アレアミア…あのさ…」
「エルド、ありがとう…」
エルドが何かを言う前にアレアミアがお礼を言ってきた。
「え、あ、うん…何が?」
「魔王の事と…この子の…ルナテルの魂を救ってくれたこと。」
アレアミアは鎌を撫でながら言う。
「救えては…」
「いえ、こうやって私の手元にあるのはあなたが持って帰るように言ってくれたからだと聞いているわ。あなたのおかげでまたルナテルと一緒にいられる…」
アレアミアの表情を見てエルドは背筋に冷汗が流れる。
「なんてね。私は天界に帰ってこの子を元の魂に戻してあげないといけないから。」
アレアミアは立ち上がり翼を広げる。
「ありゃ、翼が1対になってる?」
「魔王との戦いで魔力を使いすぎたからしょうがないわ。結界の出入りもモイラにお願いして一度だけ魔力を吸われずに通れるようにしてあるから。」
「そうか。他のみんなには何も言わなくていいの?」
「あなたに話したからいいわよ。それに私はあなたがここに来るのを待ってたの。」
「それは光栄だ。…また会えるかな?」
「正直もうあなたと会いたくないわ。」
「あはは。やっぱりか。会えないんならしょうがないや。」
「女神嫌いだったあなたが女神とまた会えるかなんて変わったわね。」
「そうかな。別に君以外の女神とは会いたいとは思わないけど。」
それを聞いたアレアミアは微笑んでエルドに顔を近づける。
「アレアミア…」
アレアミアはエルドの頬に口を寄せ離れる。
「やっぱりもうあなたとは会えない。次会ったらもう…」
そう言ってアレアミアは飛び上がり、天高く舞い上がった。エルドはアレアミアが見えなくなるまで見送った。
「エルド、いる!?」
「部屋で安静にしててって言ったのに。」
見張り台の階段を下りているとマリーとモイラの声が聞こえた。
「おや、どうしたの二人とも。」
「どうしたのじゃないでしょ。」
「部屋にいなくて心配したんだから!!」
エルドが軽く言うのをマリーとモイラは睨みながら言う。
「あはは、ごめんごめん。そう言えばアルもここにいてさ…」
エルドはアルとの会話を2人に伝えた。