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175.魔王との戦い 生死のやり取り

 エルドは座り込みながらも回復魔法で動けるように回復させる。


『回復か…意味があるかな…』


「どういう意味だ…」


『聞いてないのか?魔王は死す時爆散する。その範囲は…まあ人族がいるところまでは届かないが…お前は…』


 名もなき魔王はそのまま口を利かなくなってしまった。そして体が光り始める。


「噓だろ…」


 エルドは立ち上がり転がっているテンペラの折れた剣身とマジックルーラーを亜空間にしまう。そして呪文を詠唱して名もなき魔王の体を結界で覆った。


「この程度の結界だとおそらく意味がない。僕とテンペラの残りの魔力で何十にも張るしかない。」


 エルドは詠唱を続け結界をまとわりつかせる。なるべくきつく狭く残りの魔力で最大限の効果を発揮できるように。


 テンペラの魔力も自分の魔力もほとんど使い切りエルドは膝をつきまた吐血する。


「テンペラの魔力を無理やり使ったから…さっき治した傷も…開いたか…」


 エルドは立ち上がり強い光を発している名もなき魔王をもち上げる。残った魔力を両腕の腕輪に流し肉体強化と反射結界を発動させる。そのまま走り勢いをつけて名もなき魔王を投げ飛ばした。


「後は…運に任せて少しでも離れないと…」


 エルドはその場を離れようと足を動かす。しかし予想以上に早く爆発音が聞こえ熱を感じる。エルドは一言呟き瞼を閉じた。




 砦に向かう馬車の中で4人は爆発音を聞いた。マリーとモイラが馬車から顔を出し爆発の位置を確認する。


「あそこってさっきまで私たちがいたところじゃ…」


 モイラのその言葉を聞いてマリーは馬車から飛び出す。


「マリー!?」


「見てくる!モイラは馬車に…」


 モイラには馬車にいてもらいたかったがモイラはすでに馬車から降りマリーと並走していた。


「危険よ。」


「覚悟してる。でもエルドが怪我をしてるなら私が治さないと。」


 マリーは口元を緩めたがすぐに引き締めた。そしてモイラを掴み担ぎ上げる。


「な、なに!?」


「多少脚力あげて肉体強化を使ってても私と比べれば相当遅いから、担がせてもらうわよ。」


 マリーはそのまま加速し、モイラは離れていく馬車を見ていた。


 


 2人が元居た場所に着いたときにそこは荒野のようになっていた。草木がないどころか土も乾燥してひび割れている。


「なにこれ…こんな…」


 マリーはモイラを降ろしてあたりを見渡す。そして魔力感知でエルドか最悪魔族がいないか確認する。微かに、そして消えかかっている魔力を発見しモイラと共にそこに向かえばエルドがうつぶせで倒れていた。


「エルド!エルド!!」


 エルドを仰向けにすれば服は血まみれで顔色も悪い。呼吸も相当弱っていた。モイラはヒーリングを掲げて結界と回復魔法を発動させる。


「体の傷はひどいけど時間をかければ治せる。でも…」


「何か問題なの?」


「エルドの魔力が空に近いの。ほんのわずかに残っているけどこのままじゃあ傷を治しても…」


 マリーはエルドの手を握る。


「なら私の魔力を送れば…」


「ううん、マリーだけじゃない。私もやる。結界と回復魔法はこのままヒーリングにお願いして…」


 モイラはヒーリングを地面に突き刺し倒れないのを確認してエルドの手を握る。


「ただ気を付けて。魔力は急激に入れちゃダメだし、相性があるから私達の魔力がエルドを助けるかは運次第。最悪これでエルドを殺してしまうかもしれない。」


「覚悟の上よ。もしエルドを殺しちゃったら…」


「自分も死ぬ?そんなことは私がさせないから。」


 2人はエルドに魔力を流し始める。




 エルドが次に見たのは今まで見たことがないところだった。


「ここは…僕は確か魔王の爆発に巻き込まれて…」


 エルドがあたりを見渡すと背後に二つの影が見えた。エルドはその影を見て自分のよく知っている人物だとなぜか確信できた。


「父さん…母さん…」


 二つの影は振り返り向こうへ行ってしまう。エルドは影を追いかける。


「ちょっと待って!お父様!お母様!!お願い待って!!」


 エルドは目から涙が流れているのを感じて手で拭う。その時見た自分の手が小さくなっているのに気が付いたが気にせずに二つの影を追う。二つの影が立ち止まり振り返る。エルドは全力で立ち止まった二つの影に駆け寄ろうとするがなかなか追い付かない。そして父の影が止まるようにと手を伸ばした。それを見てエルドは思わず立ち止まってしまう。


「お、お父様…なぜ…」


 エルドが困惑していると母の影が手を伸ばしエルドの後ろを指さした。エルドは母の影が差した方を見る。そっちにも二つの影があり、少しづつ近づいてくるのがわかる。


「嫌だよ!怖いよ!お願いお母様、僕も連れて行って!!」


 エルドは涙を流し訴える。しかし二つの影は首を振りエルドの背後を指さすだけだ。背後の影がエルドに追いついた。そしてそれは怖いものではなく暖かいものだとエルドは気が付く。エルドは涙をぬぐった。小さかった手は元の大きさに戻っていた。


「ごめんよ、父さん、母さん。結局僕は小さい頃のままだった。まあ、これからも変わらないかもしれない。それは次に会った時にまた…甘えさせてもらうよ。」


 エルドは振り返り背後にいた暖かいものに手を差し出す。暖かいものはそれぞれ手を取りエルドを光の中へと導いた。




 エルドが目を開けると自分の手を取り顔を覗かせているマリーとモイラが見えた。


「マリー…モイラ…」


 声がかすれて上手く話せないがマリーとモイラが涙を流して歓喜するのが見えた。そのまましばらく2人に手を握られ魔力を流されているのを受け入れた。ある程度魔力が回復したところでゆっくりと体を起こす。


「まだ寝てなくて大丈夫?」


 モイラはエルドの背中を支えながら聞く。


「多分大丈夫だ。今は寝てるより確認したいことがある。」


 エルドは首から下げている導き石を引っ張り出す。導き石はひび割れ中に入っていた魔力が無くなっていた。


「エルド、そっれって…」


 マリーが困惑したように聞く。


「両親が助けてくれたんだ。2人がここに来るまで僕の命をつないでくれた…」


 エルドの目から涙が落ちる。


「ずっと…ずっと見守ってくれてた…両親だけじゃない。2人も助けてくれた…ありがとう…」


 マリーはそれを聞いてエルドを抱きしめる。モイラはエルドの背中を撫でていたが我慢できずに泣きながらエルドに抱き着く。


「ありがとう…本当に…ありがとう…」


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