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174.魔王との戦い 名もなき魔王

「あんたの事、なんて呼べばいい?」


 エルドは警戒を怠らずに魔王の力の意志に聞く。


『ふむ、私自体はそもそも魔族でもないからな。所詮は形無き意志。名もなき魔王とでも呼べばいい。』


「そうか魔王。」


『早くも面倒になるな。』


「お前はこれから何をする?何が目的で生きる?」


『ふむ…何をするか…私は特に何かをするつもりはない。どうせこの体も長くは持たん。』


 名もなき魔王はしばし考える。


「それならそこの山の向こうは結界が…」


 エルドが話している間に名もなき魔王が消えた。どこに行ったのかと考える前に名もなき魔王はエルドの腹部に蹴りを入れ、エルドは吹き飛ばされる。


『だが残念だ。取り込んだこの体の持ち主の怨念が強すぎて最後は人族を滅ぼす事になってしまったよ。まあ私は魔王の力の意志。魔王には逆らえないのさ。』


 エルドはふらつきながらも戻ってくる。しかし途中で膝をつき吐血する。急いで回復魔法を巡らせ治療に入るが名もなき魔王はそれを許さない。


『一撃で死ななかったのは意外だが所詮は人族。これで終わりだ。』


 名もなき魔王がエルドを殴りつけようとしたがエルドはテンペラを盾代わりにして攻撃を受けた。そして口に残った血を名もなき魔王に向けて吐き出す。名もなき魔王は顔面にそれを受けてよろめく。


『目潰しか…』


 エルドは剣を構え直しテンペラに魔力を送る。そして剣身に青い炎を纏わせて名もなき魔王のクビを狙って斬る。太刀筋は確実に首を捉えてたがテンペラは弾かれエルドは後退りする。


『面白いやつだ。素直に死を受け入れれば痛い思いをしないで済むのに対抗しようとは。』


 名もなき魔王は目元を拭う。


「待たせてる相手がいるんだ…2人もね。だから…死ねないんだよ!」


 エルドはテンペラを振り名もなき魔王を斬りつけていく。テンペラを受け流している隙にマジックルーラーで急所と思われる場所を確実に刺す。刺した手応えは感じたが名もなき魔王はダメージを受けている様子がない。


『無駄だ。そっちの魔剣なら今ので終わっただろう。だがそっちのただの剣でいくら刺されても私は死なん。』


 名もなき魔王は間合いを詰め殴りにかかる。エルドはテンペラに氷を張り盾状にし、さらに名もなき魔王に氷の結界を張る。しかし名もなき魔王の拳はいともたやすく氷を破壊しエルドを吹き飛ばす。


「いちいち吹き飛ばされるのも…面倒な事だ。」


 その時ふとエルドは思った。なぜ名もなき魔王は魔法攻撃をしてこないのかと。肉体強化をしている様子はあるが攻撃魔法はまだ放ってこない。ナメてるのか油断しているのか…エルドはしばらく考え立ち上がる。


「これが通らなきゃどっちにしろ終わりだ。」


 エルドはせり上がってきた血を吐き出す。最初の攻撃で受けた表面的な傷は治したが内面的なものは魔力の温存のためにほとんどそのままだった。


「たとえ魔王をどうにかできても、生きて帰れないかもね。」


 エルドはテンペラとマジックルーラーに魔力を送り5体の龍を出現させた。2本の剣を振り5体の龍を同時に名もなき魔王を襲わせる。しかし名もなき魔王は両腕を振って龍たちを弾き飛ばした。


『こいつは先程この体が受けた混ぜると爆発する魔法だっがな。こうやって魔力を叩き込んで弾いてしまえば…』


 そう言う名もなき魔王の周りに小さな龍が無数に浮いている。


『ほう、これは先ほどとは違う効果が。これからどうなるのか見ものだな。』


 エルドが剣を振ると小さな龍は名もなき魔王に向かって飛んでいく。名もなき魔王はそれらを難なく避け龍同士を衝突させる。衝突した龍は小爆発を起こした。


『なるほど、こういう仕掛けか。それにこれは私を縛るための囮。本命は…』


 エルドは剣に魔力を流し機会を伺っていた。


『やはり魔剣で決着をつけようとしているな。この小賢しい龍共を吹き飛ばすのは容易いがその瞬間爆発しても…』


 名もなき魔王が考えを巡らせていると龍たちがお互いにぶつかり合い四方八方で小爆発が起きる。


『く、ダメージはないがこの煙、目隠しか。あの龍たちは直接的な拘束ではなくこうするのが目的か。だが…』


 煙の中からテンペラの剣身が迫ってくるのが見えた。名もなき魔王はその剣を避け次の攻撃を待つ。再び剣が振られそれも避け、わざと体を大きく開いた。そこを突きが襲って来たがそれは名もなき魔王の狙い通りだった。


 魔王はその突きをはねのけると再び斬撃が迫ってくる。名もなき魔王はその斬撃を避けその剣の剣身を折った。


『私を斬るには魔剣でなければばらない。今折ったのは確実に魔剣。お前はもう私を…』


 名もなき魔王は胸に痛みを感じて視線を下げる。エルドがマジックルーラーで名もなき魔王の胸を突き刺していた。


「そ、そうだな…僕の残った剣が…マジックルーラーでなければ…そうだろう…」


 エルドは口から血を流す。


『なぜ…変哲もない剣に刺された程度で…痛みが…』


「何の変哲もない剣かもしれない…でもこの剣は…魔法をその剣身に宿す事ができる…テンペラの魔法を…魔力ごと宿した…その為の…導き石…」


 エルドは名もなき魔王からマジックルーラーを抜く。


「僕自身の体を経由させて…移したから…僕自身の体も…相当無理させたから…これであんたが生きているなら…僕は潔く死を受け入れる…」


『ははは…なんてバカ野郎だ。人族が魔族の魔力を体に流して無事に済むわけ無いだろうに。だが、その行為は無駄じゃなかったな…』


 名もなき魔王が地面に倒れた。


『喜べ人族。お前は魔王を倒した。私はもうこのまま死んでいく。』


 それを聞いてエルドは膝をつき座り込む。

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