171.魔王との戦い 敗北せし女神
それは唐突に始まった。アレアミアの張った結界が崩壊した。全員が結界の崩壊を察知し上を向くと女神アレアミアが落ちて来るのが見える。
「アル!下で受け止められるように準備して!」
エルドはそう言って浮き上がり一気に加速してアレアミアを抱きかかえた。アレアミアは気を失っているのかエルドが声をかけても反応しない。ただ、ごめんね…ごめんね…と繰り返しつぶやいている。
エルドはそのまま自由落下しアルが発動してくれておいた風のクッションに着地する。モイラが敷いてくれた布の上にアレアミアを寝かせて辺りを警戒する。
マリー、レイラと共にあたりを警戒していると上空から声が響いた。
「あっはっはっは〜。女神もあっけないものだ。まさかこの鎌のおかげでお前を倒すことができるとはな。」
魔王クリエイトが大鎌を持って降りてくる。その鎌の意匠にエルドとマリーは見覚えがあった。
「お前、その鎌はどこで手に入れた!?その鎌は…」
「女神が使っていた鎌だろう?」
エルドの言葉をクリエイトが遮るように言う。
「少し前に女神の魂が浮いているのを見つけてな。面白いからそれを捉えて魔剣にしてやったよ。」
クリエイトは高笑いする。
「まさかそれが功を奏したとは思わなかったよ。手持ちの魔剣を全て折られて最後に残ったこれを出したら女神は攻撃してこなくなったんだものなあ。あの時の女神の絶望顔は人族にも見せてやりたいよ。」
クリエイトが地上に降りた。
「だが魂だけの魔剣は使い物にならんな。」
クリエイトは鎌を折り、アレアミアの方に投げ捨てた。
「くれてやる。そしてそのまま人族共と死に晒せ!!」
クリエイトが放った魔力の塊がその場の全員を襲うが、エルドが前に出てクリエイトが馬鹿話をしている間に取り出した魔剣テンペラで弾き飛ばす。
「もう話は終わった?それに何かしたようだけどまた腕を降っただけかな?」
「人族風情が多少魔剣を扱えるからと調子に乗るなよ。」
エルドとクリエイトが睨み合う。
「マリー、レイラ!アレアミアを連れて早くここから離れるんだ!」
「アレアミアはモイラとアルが馬車に載せたわ。流石にこんな相手、エルド一人にはさせない。」
マリーは魔剣メテオを取り出し構える。
「私だって両方に色が出ているのですから先輩方のサポートはできます。」
レイラがサンダーアローを発動させいつでも撃てるように構える。
「まずは3人か?」
クリエイトは余裕の笑みで聞いてくる。
「いや、一人だ。マリー、わかってるでしょ。昨日は君ほどの力でも対応できなかった。こいつ相手に関しては…足手まといだ。」
マリーは何か言おうとしたが言葉が出ずに奥歯を噛みしめる。
「レイラ、そこに置いてある鎌も持っていってアレアミアのそばに置いてあげてほしい。」
レイラも何も言えず落ちていた鎌を拾い上げてマリーと共にその場を去った。
「さあ、これで準備が整ったよクリエイト。」
「我の名前を人族ごときが気安く呼ぶな!」
クリエイトから再び魔力塊が放たれ、エルドは跳び上がり避ける。そしてそのままクリエイトに斬りかかった。クリエイトはテンペラの剣身を掴もうとするが掴むことができずに手を斬られる。
「が!?なぜだ!!?」
「テンペラに色々教えてもらったんだよ。復活させた時に始末しなかったのは大失敗だね。」
エルドはクリエイトを切り刻むべく間合いを狭める。何度も斬りつけクリエイトは全身に傷をおっていく。
「ふ、ふははは。確かにな。あのとき始末しなかったのは失敗だったかもしれない。だが我の表皮は切れてもなんにもならないぞ。所詮は人族か。テンペラの教えも無駄になったな。」
クリエイトの魔力がめぐり傷が塞がっていく。
「だろうね。そもそもの能力が違いすぎる。だけどお前程度なら倒しきれるとテンペラが太鼓判を押してくれたからね。」
エルドは亜空間を開け、予備剣マジックルーラーを取り出した。