17.3人で囲む朝食
翌朝、エルドが目を覚まし台所に顔を出すとマリーが朝食の準備をしていた。
「おはよう。もうメイドじゃないんだから朝早く起きなくてもいいのに。」
「おはようエルド。3年とは言え早起きが習慣づいちゃったからね。エルドだって実家にいる時と起きる時間変わってないし。」
そういやそうだと思いながらマリーを見る。
「どうかした?」
「いや、マリーに名前で呼ばれるのも久しぶりだなと思って。」
懐かしくなり微笑んでしまうエルドにマリーも恥ずかしそうに微笑む。
「さすがにね。本当は昨日から言っててもよかったと思うんだけど…」
「ははは、トーライトは真面目というのか、頭が固いというのか…
そういえば、そのトーライトは?」
「少し体を動かしてくるって出て行ったよ。多分走りに行ったんじゃない。あっちでも時々やってたし。」
「じゃあ少し待つか?」
エルドはテーブルに並べられた朝食を見ながら言う。
「そうだね。別に冷めても問題ない料理だし、少し位なら。」
マリーはコーヒーを2人分淹れ、一つをエルドに手渡す。
「コーヒーくらいは先に飲んでてもいいでしょ。」
「ありがと。トーライトも元気だね~。まだ肌寒い朝から走りに行くなんて。」
エルドはマリーを見る。メイド姿の時とは違い、長い髪を下し眼鏡をはずしている。
「眼鏡はやめたんだ。」
「もともと必要ないから。あの眼鏡は認識阻害用で瞳の色がわかりづらいようになってたの。ただ、エルドぐらい魔力が高いとあまり意味がないけど。」
そう言ってコーヒーに口をつける。
「へぇ。いろいろ考えてたんだね。」
2人が2杯目のコーヒーを飲んでいる頃にトーライトは帰ってきた。
「おはようございます。待っていてくれたのですか?先に食べててもよかったのに。」
「そういうとは思ったけど、別に冷めても美味しいものだからね。」
エルドは席に着き、2人も座るように促す。
「ぼっちゃまは家族で食事をとるのが好きですからね。」
「そういえば、1人で食事してるところあまり見たことなかったね。なんか忙しそうな時は作業しながら食べてることもあったけど。」
そう言いながらトーライトとマリーも席に着く。
「昔から一人で食べることが少なかったから、誰かと食べるのが好きっていうのはあるね。」
雑談を交え3人は朝食を食べ始める。食べ終えるとその日の予定を確認する。
「僕はギルドに行って仕事受けてくるけど、2人はどうする?」
「私ももちろんギルドに行くよ。こっちに来たばかりだから登録もしないといけないし。」
「私は知り合いのところに研修という形で仕事をしてきます。」
「それじゃあ、今日からみんなで頑張りますか。」
そう言って立ち上がろうとするエルドをトーライトは制止する。
「あ、昨日言ってなかったのですが、私は仕事先に住み込みになるので今日からあちらに移ります。」
「え?そうなの?」
突然言われてエルドとマリーは驚く。
「ええ。正直私もお若い2人の邪魔をするのはいささか気が引けるのでありがたく承諾しました。」
そう言われて2人は慌てる。
「い、いや…別に僕たちは…」
「ふむ、そうですか。ですが今夜からは二人きりになりますので羽目を外しすぎない程度に楽しんでもらえれば…」
「わ、私たちはそんなんじゃ…」
マリーも否定しようとするが、トーライトは続ける。
「私としてははやく世継ぎをこしらえていただきたいなと。そうすれば親子3代にわたりお世話ができるというものです。」
「自分の楽しみのためかい。」
トーライトの思惑にエルドは失笑する。
「領主になられてからの3年間、早く結婚をと進言していたのにしなかったぼっちゃまが一番悪いんですよ。せめて結婚していれば今回の事は起きなかったかもしれないのに。」
それを言われてエルドはチラリとマリーを見る。マリーもエルドの方を見ていた。
「それに関しては僕も読みが甘かったと思ってるよ。まさかこんなこと起きるだなんて誰が予想するよ。
でもまあ…起きたことはしょうがないし、トーライトの野望はあきらめてもらうしかないね。」
それを聞いたトーライトはさみしそうに肩を落とした。