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168.訓練と心配

 テンペラは元いた場所が見えないくらい離れた場所で足を止めた。エルドもそれにならい止まる。


「この辺なら多少無茶をしても向こうに迷惑かからないだろう。」


 エルドは振り返り元いた場所を確認する。なんとなく人影が動いているかな程度しか認識できなかった。


「しかしあの女神も少し可愛そうだな。」


「なんで?」


「これだけ広い結界を張ったのは私達が気が変わって人族を襲おうとした時にお前らが逃げ回れるようにしたのに、一番心配しているお前がこうやって無茶をして魔族と戦いたがってるんだからな。」


 なるほどね〜とエルドはあたりを見渡す。


「武器を構えて攻撃してこい。どれくらいの実力かみてやる。」


 そう言われてエルドは予備剣を出し構える。ジリジリと間合いを詰めて一気に駆け抜け斬りつけた。


「ふん…まあ悪くはないな。」


 テンペラが振り向きながら言う。


「その体に傷一つついてないんだからお世辞はいいよ。」


「実際お前はすごいと思うぞ。私を使っていたとはいえ魔族が身に着けているものを切ったのだから。」


「そうなんだ。」


「魔族は意識しなくても魔力が体外に漏れて身につけているものを自分の身体と同化させる。それを切ったのだからお前は魔族と戦える可能性はある。しかし切れるだけじゃあ戦いにはならないぞ。」


 テンペラが構えた。テンペラの雰囲気が変わったのを感じてエルドは剣を握り直す。


「まずは避ける事だ。私の攻撃を避け続けろ。」


 テンペラが動き出した。




「やってるねえ。」


「え?何が?」


「向こうの事だ。テンペラが動いたなって。」


「なんでそんなことわかるのよ。音なんか聞こえないし、魔力探知もこの結界のせいであやふやだし。」


 マリーは作り終えた料理を並べながら言う。山のようにあった干し肉はマリーとメテオの酒のつまみとなり消えていた。


「おっほ〜、わりいな作らせちゃって。美味い。まああれだ、人族の貧弱な五感と魔族のものを比べちゃいけないって話さ。俺は特に耳がいいからな。あれくらいの距離なら聞こえる。」


「ふーん。」


 マリーの表情が曇る。


「大丈夫だって。テンペラはああ見えて面倒みがいいし、格下の相手の訓練に付き合うのは慣れてる。もしもって時は俺様がひとっ飛びで止めに行ってやるよ!」


 メテオはそう言って立ち上がりふらついた。


「酔ってるじゃない。」


「足が痺れてるからだ!イテテ…」


 ふらつきながら酒のおかわりを注ぐメテオ。マリーはそれを見てやっぱ酔ってると確信する。




 エルドは迫ってくるテンペラの拳を避け続けている。


「どうした?動きが悪くなってるぞ?」


「つ、疲れてきてるんだよ!一体どれだけ避けてると思ってるんだ!そもそもなんで腕が伸びるんだよ!」


「私の体を構成している鉱物は熱を加えると変化させられる。熱魔法で部位ごとに調整すれば腕や足を伸ばすことも、増やすこともできるんだよ。」


 テンペラの腕が6本に増えエルドを襲う。エルドはそれを避けつつテンペラに向かっていくが新たに生えた腕で捕らえられてしまう。


「何でもアリかよ魔族って…」


「少し休憩するか。」


 テンペラはエルドを放し、腕をもとに戻した。エルドは亜空間からコップを取り出し水魔法で満たした水を飲む。


「テンペラも飲む?」


「いらん。汗もかかないのに水分は不要だ。」


 鉱物系なのに汗かくんだと思ってしまうエルド。


「続きを始める前にまずお前の悪いところを言っておこう。」


「悪い所ね。魔族から見ると全部悪そうだけど。」


「その減らず口も…まあそれはいい。まずは前に出すぎだ。お前はどちらかといえば魔法のほうが得意だろう。その剣もその辺りを考えて作られてるようだしな。


 まあ、剣に魔法を纏わせて更に別の系統の魔法をまとわせるのは驚いた。魔剣状態の私でもそういう事をした事もあったが、魔剣状態だと熱魔法以外の魔法を入れられるとどうも拒絶反応が勝手に起きてしまうからな。」


「よく知ってる。暴れるもんね。」


「次に悪いというか気になった事なんだが、お前はその剣を武器として使いたいのか?それとも観賞用としておきたいのか?」


「どういう事?」


「その剣で切るときほんの一瞬だが手が止まっている。切ることを躊躇するくらい大事なものなら武器として使わなければいい。」


 それを聞いてエルドは苦笑する。


「ああ、そうなんだ…この剣はさ、僕が冒険者を始めるときに父さんがくれたものなんだ。最近知ったんだけどすごい名匠の造ったものらしくてね。まあ、それが無くても父さんの形見だからかな、こういう時じゃないと使いたくないっていうのはあるかな。」


「…親の形見だろうが何だろうがそれを使うのか使わないのか今決めろ。違う武器を使うなら戦い方が変わる。」


 エルドはしばし剣を見る。そしてテンペラを見た。


「これを使うよ。父さんだってその為にくれたんだから。まあ、1年くらいでテンペラを見つけちゃったから予備武器になっちゃったけど。」


 テンペラはため息をつく。


「お前は余計な一言を言わないと気が済まないのか。まあいい。そいつを使うなら折るつもりで使え。半端な思いは攻撃を鈍らせる。」


「そうだね。」


「…そういえばその剣の銘はなんだ?どんな武器にも銘はある。武器はその銘で呼んでやらないといけないと、それが敬意を払う事だからと魔王に言われたことがあってな。私は武器を使わないからよくわからない感覚だが、当時の部下には武器を銘で呼び敬意を払うことでたしかに実力が上がったやつもいた。」


「この剣の銘か…そういえば無いかもしれない…」


「無い?知らないじゃなく?」


「もちろん知らないっていうのもそうなんだけど、そもそもこれは僕専用に造られた剣。だから製作者が銘をつけてないなら無いのかも。普通は剣身の部分に刻まれてるものだけど、これには紋様しかないし。」


「じゃあお前がつけてやれ。刻むのは後日でもいいとして銘は今つけろ。」


 そう言われてもエルドも悩んでしまう。しばらく悩み思いつく。


「マジックルーラー…なんてどうかな。」


 それはテンペラにでもなく独り言でもなく、たしかに手元の剣に言ってるように見えた。


 エルドは銘を告げた途端、剣が呼応したように感じた。


「さて、銘も決まった所で再開だな。」


 テンペラは再び腕を増やし構える。エルドもマジックルーラーを構えてテンペラを見据えた。


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