167.魔剣の魔族達 3
「あ〜大丈夫だ。警戒するようなもんじゃない。俺の腹の音だから。」
メテオが自分の腹をさすっていう。
「なんか急激に腹減ってきた…テンペラ…お前はどうだ?」
「私は別に。…お前それ、魔力が少なくなってるんじゃないか?」
「そういえばなんかそんな感じもあるな…お〜いヒーリング〜、何か食うもの持ってないか〜。」
「あるわけ無いでしょ!その辺の木でも食べてなさいよ!!まだ治療してんだから話しかけないで!!」
ヒーリングが叫び返してきた。
「時間もお昼ごろだし私が何か作るわ。さっきの質問で食べるものは私達と変わりないみたいだし。エルド、そのへんの大木切って薪にしてくれる?」
マリーは亜空間から大鍋と材料を取り出す。エルドは近くの大木を切り倒し風魔法で枝葉を落としつつ薪にしていく。
切り出した枝に火をつけて焚き火にする適当に薪を投げ入れ火が落ち着いたところで大鍋をおいて水魔法で大鍋を満たす。お湯になったあたりでマリーが切った材料を持って大鍋に入れた。
「ちょっと火が弱いかな。」
マリーは火炎魔法を焚き火に投げ入れる。
「いつも思うんだけどさ、僕が火の準備をする必要ってないよね?」
「大鍋使うと材料が多いから準備が大変なの。どうせ暇なんだから手伝いくらいいいでしょ。」
文句を言いつつもエルドは器を用意する。自分は普通の深皿だがマリーと魔族達用に鍋のような大きさの皿を出す。
完成したスープを人数分よそいテンペラとメテオに渡す。
「乱雑に切ったり適当に混ぜたり無茶苦茶な火加減をしているように見えたが、完成品は普通にうまそうだな。」
「こんな大鍋に入れる食材を丁寧に切ってたら日が暮れるわよ。それに熱の調整は魔法で管理してるから問題ないわ。」
メテオはスープを一口飲む。
「お、うまい。魔力も結構入れ込んでてすぐ回復しそうだな。」
そう言って大口を開けて一気に飲み干した。
「相変わらず品のない食い方だな。」
「そんなこと言ってるがお前ももう食い終わってるじゃねぇか。」
テンペラの言葉にメテオが反論する。それよりもテンペラは口がないのにどうやって食べたかのほうがエルドは気になった。
「おかわりは沢山あるから自分でよそってね。」
マリーもかっこみながらスープを飲み干しおかわりをよそう。メテオとテンペラは立ち上がりマリーの後ろに並ぶ。やっぱり魔族も人族も変わりないなあと思いつつエルドもおかわりを求めて列に並んだ。
エルドがおかわりをよそっていると馬車が向かってきているのが見えた。
「なんか美味しそうなの食べてる〜。モイラ急いで急いで〜。」
ヒーリングが御者台に座っているモイラを急かしている。馬車が到着してモイラ、レイラ、ヒーリングが降りてきた。
「アルは?」
「まだ目を覚まさないから馬車で寝かせてる。中にクッション敷き詰めるのが大変だったよ。」
馬車の中を覗くと大きなクッションに埋もれたアルがいた。
「あれは苦しくないのか?」
「多分大丈夫。起きたときにあまりの快適さに起き上がる気力をなくすかもしれないけど。」
モイラも覗こながら言う。
「モイラ〜。お皿用意してあるから自分でよそってね〜。」
大鍋の方からマリーの声がした。
「は〜い。お腹空いた〜。」
モイラは駆け足で大鍋に向かっていった。
「一命とりとめて良かったなアル。早く目を覚ましてくれよ。」
エルドはもう一度アルを見てみんなのもとに戻った。
食事を終えお茶を飲みつつまったりしていると不意にメテオが口を開く。
「この紅茶もうまいが酒が飲みてえな。」
「お酒ね。エルド持ってる?」
「安い樽酒なら量もあるからいいかな。」
マリーの問に答えつつエルドは亜空間を広げて大樽を5つほど出した。
「おっほ〜!酒だ酒だ〜!」
エルドは台を設置して注ぎ口を確認して大樽を横にする。
「この部分上げれば中身が出てくるからジョッキで受けてよ。なんか一気に飲み干しそうだから。」
ジョッキを渡しながらエルドは言う。
「あはは。飯と違って酒はゆっくり楽しむもんだからな。一気には飲まねぇよ。テンペラ、ヒーリング、お前らも飲むだろう?」
「ああ、貰おうか。」
「そうね。これが最後になるだろうし。」
そう言って二人もエルドからジョッキを受け取る。
「それにしてもよくまあこんなにたくさん持ち運ぶわね。そんなに好きなの?」
「いや、これは冒険者の宴会用に持ってた奴。そういう時にこういうのを提供しておくと絡まれづらいんだ。」
ヒーリングは納得したように頷いて大樽の方に向かう。
「マリー、なんかつまめるものないのか〜。」
1杯目を一気に飲み干してメテオが聞いてくる。
「ないわよ。」
「兎肉の干し肉でいいんなら大量にあるよ。」
エルドは再び亜空間を開けて布を引き大量の干し肉を出した。
「適当に作ったやつだから味は保証できないけど。」
メテオは干し肉をつまんで口に入れる。
「あ〜、少ししょっぱいな。だけど酒にはちょうど合うからいいな。」
「それならよかった。」
エルドも干し肉を2つ掴んでテンペラの隣に座る。そして干し肉を一つ差し出した。
「食べる?」
「貰おうか。」
テンペラは干し肉を受け取りエルドと共に食べる。
「はは、ほんとしょっぱい。」
「何か話があるのか?」
「まあね。話というかお願いかな。」
「言ってみろ。無理なことじゃなければ聞いてやる。」
「僕に魔族との戦い方を教えてくれない?」
「…いいぞ。」
「まあやっぱそういう…いいの!?」
断れると思っていたエルドは驚愕の声を上げる。
「断る理由がないし教えるくらいなら構わん。ただし実戦形式になるがな。」
テンペラはジョッキに残った酒を飲み干し立ち上がった。エルドも残った干し肉を口に放り込み、やはりしょっぱかったのでもともと座っていた場所においておいた紅茶を飲み干しテンペラのもとに戻る。
「ちょ、ちょっとエルド?」
「大丈夫。無茶はしないよ。テンペラだって殺そうとは思ってないだろうし。」
困惑するマリーにエルドが笑顔で答える。
「殺す気はないが不慮の事故というものがあるからな。」
「…直接殺そうとは思ってないみたいだし。」
「さっきとセリフが変わってるわよ…」
マリーは飽きれてこれ以上は何も言えないとため息をつく。
「流石にここでやるわけにはいかないな。結界の範囲的がかなり広いから向こうでやるぞ。」
テンペラは歩き出しエルドもついていく。マリーは一緒について行こうと立ち上がるがモイラに手を引かれる。
「大丈夫。エルドは無茶はしても無謀なことはしないから。それはマリーのほうがよくわかってるでしょ。」
それを聞いてマリーは座り直した。