163.怒りと謎
エルドは凍ったジュシアを投げつけると同時にテンペラを出しアルの元へ向かう。レイラやマリーを追い抜いたところで空からアレアミアが降りてきた。
「下がりなさいエルド。こいつは魔族。話した通り私が戦うわ。」
「いいや僕がやる。どいてくれアレアミア。」
「言ったでしょう!あなた達人族じゃあどんな事をしても魔族とは戦えないって!」
「そんな事で引き下がるほど僕は大人じゃないんでね。」
エルドはアレアミアの静止を無視して魔族に切りかかる。魔族は振られたテンペラの剣身を掴む。
「そこの女神の言う事は聞いといたほうがいいぞ人族。お前らじゃあ我と戦うなど…」
「狙い通り剣身を掴んでくれてありがとね。」
エルドはそう言うとテンペラを引き氷で出来た剣身を抜く。その勢いのまま回転し魔族の首をめがけて赤い炎の剣身で斬りつけた。
しかし魔族はわずかに後ろに下がりローブのような服だけが斬れた。
「ほう、その剣まさかテンペラか。面白い、少しだけ遊んでやろう!」
魔族が腕を伸ばしエルドをつかもうとする。しかし空から盾が降ってきてエルドをその腕から守った。
「私の目の前でその人族には触れさせないわ。」
アレアミアの瞳が金色に輝いていた。
「アレアミア、邪魔を…」
「アルデリック司令官!!」
エルドの言葉をレイラの叫び声がかき消した。
「あ、アルデリック司令官を放しなさい!!」
レイラは足が震えながらも魔族に叫ぶ。
「ああ、こいつのことか。別にハンデで持ってただけだから返せと言うなら返してやろう。」
魔族はアルの体から剣を引き抜き背後に投げ飛ばした。
「もっとも、この剣が血を止めてたからそいつは生きていたがこれからはどうかな?」
「何してくれるんだ!?」
エルドは魔族に向かってテンペラを振る。魔族は再び剣身を掴みエルドを止めた。レイラはその好きに魔族の脇を通り過ぎアルの元へ走る。
「レイラ!もうすぐモイラが来るわ!急いでここから離れて治療して!!」
そう言ってるとモイラが馬車を走らせ向かってくるのが見えた。腹部から血を流し転がるアルを見て慌てて馬車を止め、魔剣ヒーリングを持ってアルのもとに駆けつけていた。
「あれはヒーリングか。」
テンペラの剣身を掴んだまま後ろを振り返りモイラたちを見る魔族。その上空から突如熱気がほとばしりマリーが魔剣メテオを振り下ろして落下してきた。魔族は当然の事のようにメテオを持っていた剣で止めた。
「すごいな。メテオまであるのか。」
魔族は感嘆の声を上げる。マリーはすぐさま魔族から離れる。エルドも炎の剣身を一度消して距離を取り今度は氷の剣身を出現させる。
「エルド下がって!!」
アレアミアがエルドの前に出ようと走るがエルドはそれより早く動き魔族に迫る。魔族は剣を振り上げ向かってくるエルドに振り下ろした。
エルドはテンペラで受けると魔物の剣は折れた。
「ほう…お前何者だ?」
「何者と聞かれてもね。ただの人族だ。」
そんなことはあり得ないとアレアミアは思う。ただの人族が魔族の持つ武器を折るは考えづらい。マリーを見るとメテオを魔族の剣に打ち付けた反動で腕がしびれ蹲っている。この様子だと衝撃をすべて返されている。それが普通のはずだ。それなら剣を折ったエルドは一体何者なのか…
考えられることが一つある。それはエルドが女神の血族の場合だ。大した数はないが女神が人族に惚れ込んで人間となり子を成したという話は事実としてある。地上に降り人族になった女神でも女神の力は残っている。それが子孫に引き継がれているというのは可能性として無いことはないだろう。
アレアミアが思考の海に浸かっている間、魔族もまた思考の海に入っていた。エルドとしては絶好の機会なのだが魔族に隙がなく攻めあぐねていた。しょうがなく距離を取りマリーとアレアミアのところまで下がる。
「エルド、あなたは確かに魔族に対応できる可能性がある。」
「へぇ、ならこのまま続けても大丈夫だね。」
「いいえダメよ。気が付かない?アイツはまだ本気どころか戦闘するという意識すらないの。わかりやすく言えばじゃれつく仔猫の相手をしている感覚なのよ。」
アレアミアはどこからともなく鑓を取り出した。
「下がってて。いまなら…」
アレアミアは鑓を構えて魔族に向かって突きを放つ。