161.4人の戦い アルデリック
アルは剣を構え馬面劣化魔族を見据える。
「1対1でやる気概は買うが人族ごときが俺らが魔族に勝てると思ってるのか?」
「思っているというか、負ける要素がないからな。」
「言うね〜指揮官さん。俺はマーイン。お前も名乗りな。人族で唯一覚えておいてやる。」
「アルデリック・リュトバルクだ。覚えておかなくてけっこうだ、馬面!」
アルは飛び上がり風魔法をまとわせた剣身でマーインを斬りつける。しかし…
「か、硬い!?」
アルの剣はマーインを傷つけることなく肩で受け止められている。
「太刀筋はいいし魔法をまとわせて威力を上げるのも悪くないな。だが、その程度じゃ俺は斬れない。」
マーインはアルの腕を掴み投げ飛ばす。アルは体制を立て直してマーインに向かい乱雑に斬りつける。
「どうしたアルデリック?その程度か?」
どれだけ切られても表皮すら切り裂けないのを見てマーインが問う。その時アルが呪文の詠唱をしている事に気がつく。
「何をする気だ!」
マーインがアルに襲いかかるがそれより先にアルの詠唱が止まる。
「エアカッター!」
無数の風の刃が放たれ、先程アルが乱雑に斬りつけた箇所に飛んでいきマーインを切り刻む。
「さっき切ったのはただのマーキングだ。これだけの数だ、流石にこれは効いただろ…」
アルは汗を拭いながら間合いを取る。
「ああ、こいつは効いたな。もう少し魔力を込めれば少しヤバかったかもな。」
どこも傷つく事もなくマーインは立っていた。
「どこまで硬いんだ…だが魔力を込めればいいんならこっちのもんだ!」
アルは再び呪文の詠唱を始める。
「馬鹿かアルデリック。敵に正確な状況を教えるということは、もう攻撃させないって宣言なんだよ!」
マーインは一気に間合いを詰めてアルの腹部を殴る。アルはそのまま吹き飛ばされる。
「がはっ…この感じは肉体強化か…あの硬さもそれが…」
「ボケッとしてらんねぇぞ!アルデリック〜!!」
マーインが倒れ込んでいるアルを踏みつけようとする。アルは体をよじり避ける。
「これならどうだ!?」
マーインは両足で何度も踏みつけを行い、アルは転がりながら避け続ける。
「無様だな〜、アルデリック。人族はそうやって地を這ってるのがお似合いだ!」
アルの顔面を踏みつけようと足を出すとアルはその足を掴んだ。そしてそのまま引っ張りマーインを転ばせて立ち上がる。
「馬面の方がその場所はお似合いだよ。エアカッター!!」
間合いを取りつつ魔法を発動させる。無数の風の刃が起き上がろうと膝立ちになっているマーインを切り刻んだ。
マーインは先程よりも魔力を多く込めているのだろうと予想して自分も肉体強化魔法に魔力を上乗せしていた。しかし結果はアルの魔法を跳ね返すことなく切り刻まれていた。
「魔力を込めただけじゃなく…刃の性質も変えやがったな…全く別の魔法じゃねぇか…」
先程のエアカッターは変哲もない刃だったが、今度の刃は高速で微振動してて切れ味を増していた。
「これぐらいできないとあの3人には到底及ばないんだよ。エアスラッシュ!」
アルが振った両腕から風の刃が放たれ、マーインの首を切断した。
「やっぱり負ける要素がなかったな、マーイン。」
アルはそう言って座り込んでしまった。
アルが座って休んでいると他の3人が同時に戻ってきた。
「何だみんな一緒か。エルドとマリーはなんか持ってきてるな。ありゃ劣化魔族の死体か?」
3人が来るのを眺めているとそれぞれ手を降ってきたのでアルも振る。
その時背中から腹部にかけて激痛が走り腹部を見ると何かが腹部から伸びていた。それが剣であるというのはすぐに理解した。しかし自分の剣ではない。見たこともない剣だった。
アルはぼやける視界でエルドが氷の塊を投げたのを見たが、そのまま意識が遠ざかった。