160.4人の戦い レイラ
レイラは雷魔法を放ちつつ相手と距離を取る。相手は雷魔法を避けて間合いを詰める。
「最初見たときから嫌な予感はしていたけど…本当に…エルド先輩のせいだ…」
レイラは更に広範囲に雷魔法を放つ。発生した雷が一つ相手に当たるが相手はびくともしないで間合いを詰めてくる。
「いい加減逃げるのはおよしなさい!」
劣化魔物の手から触手が伸びレイラを捉えようとする。レイラはそれを見て背筋が凍り冷や汗を流した。
「来るな〜!このタコ〜!!」
レイラは泣きそうになりながら叫び、迫ってくる触手を風魔法で切り裂いた。
「どれだけ触手を切っても無駄よ。すぐ再生するんだから。」
そう言っている間にレイラに切り裂かれた触手は元に戻っていた。
「そして…あたいはイカじゃぼけぇ!あんなグロテスクな化物と一緒にするんじゃねぇ!!」
「どっちも変わりない!サンダーアロー!」
レイラの手から矢が放たれる。放たれた矢は劣化魔族に近づくたびに数を増していく。矢が劣化魔族が突き刺さるが劣化魔族は意に介さず向かってくる。
劣化魔族は触手を伸ばしレイラの首に巻き付けて持ち上げる。
「ようやく捕まえた。全く人族ごときがこのあたい、ゼイニィ様を手こずらせるんじゃないわよ。」
ゼイニィはレイラに巻きつけた触手を締め上げる。
「かぁ…あ…」
レイラは触手を掴み引き剥がそうとするがびくともしない。更に締め上げられ薄れゆく意識の中で脳裏に浮かぶのは家族の事だった。
子供の頃、父が注文を受けたからと生きたタコを輸入してきた。海の生物など見たことなかったレイラは父に頼んでタコを見せてもらった。
商品だから普段なら触ろうとは思わないがタコの吸盤に興味を惹かれ触ってしまった。するとタコはレイラの指を掴みそのまま触手を伸ばしてレイラの腕に絡みついた。
すぐさま父にはがしてもらったが腕を上がってくるタコの姿にレイラは恐怖し、ウネウネでヌメヌメの吸盤のある細長いものがトラウマとなった。
タコを引き剥がしても泣き続けるレイラを父は抱き上げこう言ってくれた。
『もし絡みつかれたりしたら噛み付いてやれ。どんな生物にも痛みは感じるからな。…たぶん…』
レイラは掴んでいる触手の先端が近くにあるのを感じた。ウネウネ動いて苛立たしい。レイラは最後の力を振り絞って触手の先端を掴み噛み付いた。
「いだ〜!!」
噛みつかれたゼイニィはレイラを放してしまう。ギリギリのところで脱出できたレイラは呼吸を整えてゼイニィに手のひらを向ける。
「サンダーボール!」
レイラの手のひらから雷球が放たれゼイニィはまともに食らってしまう。ゼイニィと間合いが十分に取れたレイラは呪文の詠唱を始める。
「この野郎!ふざけた真似しやがって!!」
ゼイニィが起き上がりレイラに向かおうとする。その時空が急に暗くなったのを感じた。不審に思ったゼイニィが空を見上げると自分の上空にだけ黒雲が差し掛かってる。
「な、なにこれ…」
ゼイニィが困惑しているとレイラの呪文の詠唱が止まった。たとえ何であろうと関係ないとレイラに襲いかかる。
「サンダー。」
レイラが言い終わるかどうかの瞬間、轟音と共にゼイニィに雷が落ちてきた。かなりのダメージを食らうがゼイニィはまだ迫ってくる。
「サンダー。」
ゼイニィから距離を取りつつ魔法を発動させるともう一発ゼイニィに雷が落ちる。それでもゼイニィは迫ってくる。全身血まみれで目の焦点があってない。
「サンダー。」
更にもう一発雷が落ちる。そしてゼイニィは倒れ動かなくなってしまう。レイラは冷徹にゼイニィを見て口の中に残る生臭さを排除するために水魔法を唱えた。