158.劣化魔族
「これから暑くなる時期だってのに流石に北はまだ肌寒いね〜。」
「そう思うならその魔剣まだ仕舞っておいてほしいんだが。冷気が漏れてるんだよ。」
エルドがテンペラを担いで言ったつぶやきをアルが拾う。
「だから昔、熱魔法は覚えておいたほうがいいって言ったじゃん。」
エルドは熱魔法で自分の周囲を温めていた。マリーも熱魔法で自分の体を温め、レイラはその恩恵を受けていた。
4人は今、劣化魔族と2万匹の魔物を分断させる予定地に来ていた。
「マリーどうかな?」
エルドの言葉にマリーは魔力感知を発動させた。
「予定通りね。魔物はあと10分ほどでここを過ぎるわ。」
レイラはマリーの言葉を聞いて通信魔法で砦で待機している職員に連絡した。予定通りモイラに結界を張ってもらい冒険者たちに対応してもらうために。
作戦会議から魔物の数は増えてなかった。ならば2万匹すべて冒険者たちに対応させるのはどうかと話が出た。モイラの結界で弱体化させるとはいえ危険な賭けであったが冒険者たちはそれを了承してくれた。
4人は茂みに隠れて魔物が通り過ぎるのを待つ。そして10分後、魔物は4人の前を通り過ぎ砦に向かっていった。レイラは魔物が自分たちの前を通り過ぎていったのを通信魔法で伝える。
「さあ、魔物はモイラや冒険者たちに任せて俺らはこっちだ。」
4人は横一列に並び魔物が来た方を見る。向こうから4つの影が近づいてくるのが見えた。そして近づくたびに体が重くなったような感覚に陥る。アルとレイラは呼吸が早くなり落ち着かなくなった。
「アル!レイラ!大丈夫だ。女神様が僕らなら対応できるって言ってくれたんだ。だから大丈夫。」
エルドのその言葉を聞いて2人は深呼吸する。エルドとマリーもしていた。
「なんだよお前ら。お前らも震えてたのかよ。」
アルがエルドとマリーに言う。
「そりゃあ未知の相手は怖いよ。」
「私は別に。ついでだから一緒にしただけ。」
「みなさん、来ましたよ。」
4人の劣化魔族も横一列に並んでいた。お互いの姿が視認できる位置で劣化魔族は足を止める。
「なんだぁお前ら?オイラたちはこの先に行かなきゃいけねぇんだからどきやがれザコども。」
右から二番目の豚面の劣化魔族が言う。
「あんたらの前にいるんだから通さないようにしてるってわからないかね。意外と頭はよくなさそうだ。」
エルドが豚面劣化魔族の言葉にかわいそうなものを見る目で答える。
「なんだとコノヤロ…」
「待てジュシア、人族ごときの挑発に簡単に乗ってるんじゃない。」
右から三番目に立っていた馬面の劣化魔族が豚面劣化魔族を止める。その声にアルが反応した。
「その声、あの時つぶやいてたのはお前か!?」
「んん?そういやお前見覚えがあるな…ああ、前に大量の魔物を攻め込ませたときに指揮していたやつか。なんだ、俺の独り言を聞いてたのか〜、こりゃ魔王様にバレたらヤバイな〜。」
魔王という言葉を聞いてエルド達がこわばる。
「まあしょうがない、証拠が無くなればいいって話か。」
馬面劣化魔物が首を回しながら言う。
「おいおい、あたいらにそんな話聞かせてよかったの。」
「俺らが魔王様に報告すればお前はどっちみち四天王の序列最下位だ。」
残りの2体の劣化魔族が言う。
「な〜に言ってんだ。これがバレたら連帯責任で魔王様に何されるかわからねえよ。」
それ聞いて他の劣化魔族は冷や汗を流す。
「そ、それもそうか。そしたらしょうがない。全力で消させてもらおう!」
豚面劣化魔族がそう言ってエルドに襲い掛かってきたがエルドはテンペラから発生させた氷で豚面劣化魔族を押し返す。
「アル、相手を選ぶのも面倒だしこのまま正面のやつとやり合うでいいよね。」
「そうだな。レイラとマリーもそうしてくれ!」
エルドはそのまま氷で豚面劣化魔族を押していき離れて行った。マリーも一番右にいた劣化魔族を蹴り飛ばし離れる。レイラは雷魔法を放ち相手を挑発して左側にいた劣化魔族と行ってしまう。
「いいのか?下等な人族が俺達魔族と1対1でやりあうなんざ自殺行為だぞ?」
「問題ない。俺達は人族でも指折りの強さだ。お前らのような奴には負けねぇよ。」
アルは亜空間から剣を取り出し構えた。