157.問題発生
エルドは朝から冒険者数名に挑まれ、片手間に相手した後司令官室に向かった。
「アル〜。なんか手伝うことある?無いならまだ冒険者達に…どうした?」
アルは机に顔を伏せて落ち込んでいた。
「大問題発生だ…」
「とりあえず聞こうか?」
「ヒュライスがいなくなりやがった…多分帰ったんだろうな…」
それを聞いて何が問題なのか理解した。戦力が足りないのだ。
「しょうがないからAランク冒険者を50名ほど動員するしかないだろ。残りの50名弱で砦の守りの指揮を取ってもらって…」
「大変です、アルデリック殿下!!」
突如扉が開いてモイラとアレアミアが入ってきた。
「こっちも大変なんだ。手短にお願いする。」
「今しがた探知魔法を使ったら昨日は確認できなかった魔物が劣化魔族と合流してこっちに向かってるわ。」
アレアミアが簡潔に話す。そしてアルとエルドは落ち込む。
「いやまて。数はどれくらいですか?」
アルが聞く。
「およそ2万匹。」
アルは完全に崩れ落ちた。
「何かあったの?」
エルドはヒュライスが帰った事を説明する。
「わぁ…そういえばここ2、3日見ないなーとは思ってたけど…どうするの?」
「レイラとマリーに半分ぐらい対応してもらってから劣化魔族の方に行ってもらおう。」
「それが妥当か。魔力的には問題ないだろうが体力的に…あの2人でやれば準備運動レベルか。」
アルの提案にエルドは納得する。
「ただ分断させるには…」
「それなら僕が足止めするか。表面凍らせるくらいなら大して魔力使わないし。」
「そうしたらまずはこの位置で待ち伏せて…」
「あとは正確な距離か。アレアミア、劣化魔族たちはどの辺にいた?」
エルドとアルは地図を広げて作戦会議に入る。モイラはしばらく見ていたが邪魔になるだろうとアレアミアとソファーでお茶を楽しみつつ終わるのを待つ。
「あの2人で作戦会議をすると止める人がいないから長くなるってマリーが言ってました。ついでに余計な喧嘩もするって。」
「そう。マリーが来てくれるのを待つしかないわね。」
そう話していると扉が空いてマリーとレイラが入ってきた。
「アル、聞きたいことが…みんないたのね。」
「どうした?これ以上の問題は対処しきれないぞ。」
アルの表情がこわばる。
「問題といえば問題かな…今こっちに来る時にヒュライスも連れて来ようと思ったんだけど、どこにもいないのよ。だからアルが何か知ってるかなって。」
アルは安堵の息を吐く。そしてマリーとレイラに現状の問題点を話した。
「なるほどね…それは困ったわね。」
「とりあえずエルドと配置の検討したんだがちょっと見てほしい。」
アルは6人が見やすいように地図を壁にかける。
「さっきアレアミア様が劣化魔族たちの位置を確認してもらったらここ。移動距離から換算して結界内に入るのは予想通り明後日の午前中といったところだ。
劣化魔族に対しては俺、レイラ、エルド、マリーで対応するが、劣化魔族の前に共に向かってきている2万匹の魔物のうち約半分を切り崩す。残りは冒険者たちに任せるしかない。」
それを聞いてマリーはしばらく考えている。
「魔物1万匹くらいならこの4人で対処すればすぐ終わるか…エルドとアルに任せる割合を減らせば劣化魔族の対処も問題ないって所ね…ただ問題点が…
劣化魔族に対しては情報がなさすぎるからどうにかやるしかないけど、もし魔物がもっと数を増やしてきたらどうするの?」
「そこなんだよ…」
アルがため息をつく。
「それに関してはもしかしたらモイラができるかもしれない。」
エルドがつぶやく。
「え、私?なんで??」
みんなのお茶を用意していたモイラはポットを落としそうになった。
「魔剣ヒーリングが張っているような魔物達を弱体化させる結界を別に張れたりしない?」
それを聞いて全員モイラを見る。モイラは眉をひそめて考えて立てかけてある魔剣ヒーリングを手に取りしばらく黙り込んだ。
「できない事はないけど私の魔力量や、本来の結界の維持の分を考えて2時間が限界みたい。」
「それだけあればなんとかなるかな…」
エルドは腕を組み冒険者たちの戦いを思い出しながら言う。
「それなら配置は…」
作戦会議はそのまま昼をまたいで夕方まで行われた。