154.魔族四天王
アレアミアとモイラが司令官室に戻ってくるとエルド達4人はソファーでお茶を飲んでいた。
「おかえりなさい。お二人もどうです?今淹れたばかりですから。」
レイラが給仕しながら言う。
「いただくわ。落ち着いたらみんなに話したいことがあるの。」
そう言ってあれアミアはソファーに座り、モイラもその隣に座った。レイラは急いで追加のカップを出し2人に渡す。レイラもソファーに座りみんなが落ち着いてきたと感じた頃、アレアミアは口を開く。
「さてと…まずは現在の話ね。さっき見張り台のところから魔力探査をして魔族を探したの。やっぱり魔族はいるわ。でもそいつはその場所からまだ動いていなかった。まだ攻め込む気がないのか魔物だけで攻めきろうとしてるのかはわからないけど。」
アレアミアは紅茶を一口飲む。
「それ以外に気になる魔力が4つ、ここに向かって移動してるわ。」
「それは魔族ではないんだな。」
エルドが問う。
「ハッキリ言ってわからない。魔物よりは強い。でも魔族に比べれば全然弱いわ。ただ魔力の波長が魔族っぽいのよ。」
「それはつまり魔族って認識でいいのかしら?」
ハッキリとしない答えを言うアレアミアにマリーが再び問う。
「いえ…魔族ではないわ。あなた達でも対応可能よ。言うなれば劣化魔族。」
しばしの沈黙。アルが立ち上がり棚から地図を持ってくる。
「そいつ等がなんであれこっちに向かって来てるなら対応するしかない。アレアミア様、そいつ等の魔力探知したときの位置とここに来るまであとどれくらいかかるかわかりますか?」
アレアミアは再び魔力探知を発動させた。
「さっき探知した時はここ。いま探知したら少し移動してここ。いくら魔族といえども休息はいるからそれを踏まえれば…ここに到着するのは3日後ぐらいかな…あまり自信ないけど…」
「3日か…意外と速いと見るか普通と見るか…」
エルドは地図の縮尺を確認して相手との距離を確認する。距離的に言えば魔獣馬に乗っていけば丸3日もあれば到着できる距離だ。相手が走ってるのか歩いてるのかわからないため早いか遅いかなんとも言えなかった。
アレアミアは紅茶を飲みほしてカップをテーブルに置く。
「これから話すことは今回の件に多少関わってくると思う。それが無くても魔剣を持つ3人には話しておいたほうがいいかもしれないし。」
アレアミアが戦地に入ってから1年ほどは魔族側が優勢だった。それは魔王の力が強大ということもあったが魔王は滅多に戦地には出てこない。厄介だったのは魔王直属の4人の配下。女神族はその4人を魔族四天王と呼んだ。
そんな脅威だった四天王はある時から同時に戦地に出てこなくなった。確かに出てこなくなる前に女神族側は四天王に奇襲をかけて4人とも殺害までは出来なかったが相当の手傷を追わせた。だから女神族は出てこなくなった時点で四天王は討伐できたと考えていた。しかし少し後に魔族が3本の魔剣を携えて戦地に来るようになった。四天王のうち3人の得意魔法を扱う魔剣を。
その四天王の名前がヒーリング、メテオ、テンペラ、クリエイト。クリエイトだけ魔剣がないのは魔族が持ってるのかもしれない。創造魔法は普通じゃ会得できない特殊な魔法。
「なるほど、創造魔法の魔剣か…ちょっとほしいかも。」
エルドが不敵に笑う。
「そういう話じゃないでしょ。第一創造魔法使えないじゃない。」
マリーがエルドの頭を叩いて言う。
「痛い!まあね。そもそも創造魔法なんか普通に覚える魔法じゃなく生まれながらに使えるタイプの魔法だからね。うちの国が建国されてからの記録でも10人もいないし。」
マリーに叩かれた部分をさすりながら言う。
「何にせよまずは劣化魔族だ。まさかそいつらが魔剣持って来るとも思えないし。」
「そうだな。人員の配置とかはちょっと考える。時間がないから急がないとな。」
「じゃあ今日はもう切り上げましょう。暗くなってきましたし。」
モイラが手を打っていう。その言葉に驚き窓の外を見ると暗くなっていた。
「うわもうこんな時間。長く話してたつもりはなかったけどな〜。」
エルドが窓の前に移動しながら言う。
「そうするか。意識したら腹減ってきたな。今日はどっちで食べるか。」
「女神がいるとうるさい事になりそうだからこっちでいいんじゃない。」
アルの言葉にエルドが答える。
「こっちだと運んでくる間に少し冷めて美味しさが損なわれてるから私は大食堂に行くわよ。」
マリーが立ち上がりながら言う。
「こういうときはみんな一緒がいいのに〜。…要は女神様っていうのがバレなければいいのよね。」
そう言ってモイラは亜空間を開き銀色の筒を取り出す。
「それは?」
アレアミアはそれに少し興味を惹かれた。
「髪の毛の染め粉です。簡単に染められてお湯で洗い流せばすぐ落ちるスグレモノなんですよ。」
そう言って筒を振る。
「金髪じゃなくせば女神様って気づかれませんからね。翼はもう見えないようにしてありますし。何色がいいか希望がありますか?」
「そうね…じゃあ黒かな。そっちのほうが目立たない…」
「いや目立つわね。」
マリーが否定した。
「黒に染めちゃったら黒髪黒目で私達の中ではものすごく目立つわよ。」
その言葉に誰もが納得した。
「じゃオレンジ色かな。誰とも被らないほうがいいかもしれないし。」
モイラは頷きアレアミアの後ろに立って染め粉をふりかける。そしてクシを取り出して丁寧にすいた。あっという間にアレアミアの髪は金髪からオレンジ色に変わった。それから6人は大食堂へ向かう。