153.調査
翌日からまた忙しくなって来た。アルは今一度戦力の見直しのために今いる冒険者のリストや資材の確認をさせる。それにレイラやマリーも動員された。
モイラはアレアミアを砦内の案内を買って出た。案内中の雑談で女神族や天界の話題が出ればすぐさまメモを取っていた。
エルドは見張り台に登り冒険者が魔物を退治している様子を眺めていた。日に日に魔物の攻めてくる数が増えて冒険者のローテーションも難しくなって来ている。エルドやマリーが対応すれば簡単なのだが冒険者たちの指揮が高く手を出すのがはばかられていた。
エルドは遠くの山に目を移した。北の大前線の草原にそびえ立つ2つの山。その山の手前までが魔剣ヒーリングの結界範囲。その先は人族未踏の地。誰もその先に行ったことがないという話だった。その未踏の地から魔物はやってくる。
「ん、終わったみたいだ。」
歓声が聞こえたので目を向けると魔物の討伐が終わっていた。魔物が攻めてくるのは1日1回。時間はマチマチのため夜に攻めてくることもあり担当になった冒険者は1日気が抜けない。
「アレアミアの話を疑うわけじゃないんだが、本当に魔族がいるのかな…まあ少なくとも戦略を考えて統率できるだけの知能を持つやつはいるようだが。」
エルドは見張り台を降りて司令官室に向かった。司令官室に戻るとアルは難しい顔で資料を読んでいた。
「戻ったよ。」
「ああ、どうだった?」
資料から顔を上げずに聞いてくる。
「予想通り。あと一週間もすると今の四組体制じゃ戦力が足りなくなる。かと言って二組にしてうまく行くかどうかわかんないね。」
「やっぱりか…この一週間で魔族が動いてくれれば有り難いんだがな…」
アルは天を仰ぐ。
アレアミアは砦の案内の最後に見張り台に来ていた。エルドがいた見張り台とは別の場所の一番でかい砦の中央の見張り台だ。階段を登り頂上に出る。モイラも後をついてきていた。
アレアミアは探知魔法を発動させた。結界よりはるか外、魔族の魔力を感じる。それと魔族によく似てるけどそれよりも遥かに弱い4つの魔力。こっちは初めて感じた魔力だ。
そしてすぐ近くに魔族とよく似た反応を感じて慌てて振り向く。目に入ったのはモイラの持っている杖だ。そしてなぜ今まで気が付かなかったのか、その杖はよく知っているものだった。
「モイラ…その杖って…魔剣…?」
「は、はい。そうです。」
魔族との戦終盤で女神族を苦しめた3本の魔剣。その内の1本が目の前にある。
「まさかエルドとマリーだけじゃなくあなたも魔剣を…」
「ヒーリングです。」
「え?」
「この子の銘です。ただの魔剣じゃなくて魔剣ヒーリング。どんな武器にも銘はありますからそれで呼んであげないと可愛そうです。」
アレアミアは驚きで目を見開いた。
「ヒー…リング…ねえモイラ、エルドとマリーの魔剣の銘って、メテオ、テンペラ、クリエイトのどれか?」
「そうです。エルドがテンペラ、マリーがメテオです。でもクリエイトって…」
モイラの答えを聞いてアレアミアは見張り台の階段を降り始める。
「どうやらもう少し過去の話をしないといけないのかもね。それに今わかった事も。」
「あ、待ってください!階段駆け下りたら危ないですよ!!」
2人は司令官室へ向かった。