152.女神アレアミア
アレアミアが産まれ時魔族との戦は終盤を迎えていた。アレアミア自身才能を買われて数年の修行の後いま人族が北の最前線と呼んでいる地に送り出された。
魔王と対峙したのはそれから数年後。女神族が最終決戦を仕掛けアレアミアを含む精鋭8名で魔王を迎え撃った。女神族は歓喜したが誤算もあった。精鋭で生き残ったのが一番若いアレアミアとその幼馴染のみ。他の女神は魔王の爆散に巻き込まれて命を落とした。また生き残った2人も魔力を使い切り長い眠りについた。
「だから司令官さんの問には戦えると答えられるわね。さっきも言ったとおりそうでなきゃここに来ないわ。」
誰もが息をつく。古い歴史の書物にすら書かれていない口伝のみの言い伝え。最後の方とはいえ歴史の一部に触れた、そんな感覚を覚えていた。
「アレアミアがどれだけの実力かはよくわかった。だけど…」
「いえ。まだ大事なことを伝えていない。」
そう言って立ち上がり後ろを見る。
「翼が2対…今まで背中なんか見たことなかったけど1対じゃなかったか?」
アレアミアは向き直り座る。
「そのとおり。これまでは1対しか翼はなかった。女神族は魔力量で翼の数が変わる。最大3対。そして私が魔王と戦った時は3対だった。」
「つまり全盛期の実力はないって言いたいわけね。まあそれでもここに来たってことは問題ないって判断したんだろうし、さっきの話だと魔王と戦って生き残った女神がもう一人いるって…」
「いえ。もう一人は別の理由で命を落としてもういないわ。魔王と戦って生き残っているのは私だけ。」
アレアミアは悲しそうな表情をする。
「じゃあんたに何かあったら増援とかは?」
「どうかしらね。今の時代、戦う事がなくなった女神族は戦の女神の数を減らしてるの。今は100人くらいしかいないし、そもそも魔族と戦ったことのある子はいないから増援に来てもどこまで対応できるか…」
「それでも…頼むことしかできないのか…」
「ええ、人族では魔族に太刀打ちできないから。」
エルドは深くふさぎ込み、顔を上げる。
「アル、人員の配置や戦略なんかはアルの領分だ。お願いできる?」
質問してはいるが決定事項なのだと誰もが理解していた。アルは同時にエルドの表情に申し訳無さが含まれてるのを読み取っていた。
「気のするな。人族が勝てない以上女神様に頼るしかないんだ。」
アルは一息つく。
「マリー、お茶淹れてくれるか?」
「そうね、何か飲みましょうか。」
アルに頼まれてマリーはお茶の準備をする。モイラも手伝いをするために立ち上がった。レイラは話の内容にしばらく呆然としていたが我に帰りマリーの手伝いをする。
それぞれに紅茶と茶菓子が行き渡り一息つく。
「女神様も飲食するんですね。」
出された茶菓子を食べているアレアミアを見てモイラが言う。
「ええ、別に食べる必要性はないんだけど女神族の娯楽の一つとして食事があるの。」
なるほど〜っとモイラは手帳にメモを取る。
「ちょっと待てモイラ、なんで今のをメモした?そもそもいつからメモしている?」
アルがモイラの行動に疑問を覚え問いかける。
「え?女神様から直接お話聞けるなんて普通じゃありえないんですから聞いたことは全部記録して世間に公表しないと!!だからこれまでの会話は全部記録しています!!」
モイラの目はいつもの数倍輝いていた。忘れがちだがモイラは女神教のシスター。この場の誰よりも女神を崇拝している。それが話を聞けるだけでも昇天の喜びなのに会話ができるとなればこうなる。アルは頭を抱えた。
「あ〜…質問してメモを取るのは構わない。だがどれを公開するかは一度父上に確認するのが条件だ。」
悩んだ挙句、父親に丸投げすることを決めた。
「アレアミアも大変だね。」
エルドの言葉にアレアミアは首を傾げる。
「最後に会った女神裁判の日から大体2ヶ月か、あまり休む間もなく色々調べてここに来なきゃいけなかったんだろうなって思ってね。」
それを聞いてアレアミアは目をそらした。
「…なんかまだ僕らに言ってないことがあるようだねアレアミア。この際だから体面なんか無視して話しちゃいなよ。」
エルドが笑顔で言う。しばらく口を閉ざしていたアレアミアだったが最終的に女神族の住む天界から北の前線へ直接来るつもりが、いつもの癖でライナス領のコリー山に行ってしまい、出国に時間がかかったと白状した。
「それじゃあ一度天界に戻ってからここに来ればよかったんじゃない?」
マリーがもっともなことを聞く。
「そうしたいのは山々だったんだけど、貴方達の国に張られている結界とどうも相性が悪いみたいで出入りのさいごっそり魔力を持っていかれるのよ。しかもあの結界、ここまで伸ばしているでしょう?そう何回も出入りできないから冒険者に混じって来たのよ。」
エルドは飽きれた表情で紅茶を飲み干した。