151.新たな来訪者
「暇だな〜。」
ジムで逆さ吊りになりながらエルドはつぶやく。
ケイラックが帰国して一週間、エルドは割と暇だった。アルの忙しさも落ち着いて今は手伝ってない。魔物もここのところは毎日出るが他の冒険者が頑張るためにあまり参加できていなかった。
更にトレーニングも前なら暇な時間を見つけてやっていたが今は倍の時間やっても時間が余る。時々冒険者に試合を申し込まれるが10分以上戦うことはなかった。
「それは何かのトレーニングになってるの?」
マリーが汗を拭いながら聞く。
「いや。昔から暇な時って逆さまになる事が多いんだよね。」
エルドは腕をぶらつかせる。
「エルド先輩、マリー先輩、モイラさん、急いで司令官室に来てください!」
突如ジムの扉が開いてレイラが叫びながら入ってきた。
「汗かいたからシャワーくらい…」
「そんなのはいいですから急いで!アルデリック司令官では対応できません!!」
緊急事態を読み取りエルドは自分たちを水魔法で素早く洗浄して司令官室に向かう。
「アル、入るよ!」
司令官室に入るとアルが呆然と椅子に座ってるのが目に入った。
「どうしたんだアル…」
ソファーに誰かが座っているのが視界に入ってくる。見覚えのある金髪の女性だがいつもと何か違う感じもする。
「女神アレアミア?なんでここに?いや、それ以前に…」
あとから入ってきたマリー、モイラも驚く。
「久しぶりエルド、マリー、モイラ。エルドの疑問は私が異空間ではなくこうやって普通に地上にいる理由かな。」
普段は青白い空間に自分達が呼び出されていた。だから女神は地上に降りてもあの空間から出られないのではないかと考えていた。
「エルドとマリーは前にもこうやって地上で話したことあるけどね。」
エルドは記憶を探る。そして思い出すのは呪いの女神ルナテルの件だ。確かにあの時はアレアミアが来たとき景色は変わっていなかった。
「色々と話さないといけないしそこに立ってるのもなんだから座って。司令官さんもこちらに。」
そう言われてソファーに座る5人。アレアミアは目を瞑り話すことを整理している。
「…まずはこの地の現状についてね。いま数多くの魔物が攻めてきていると思うけどそれはこれからより激しくないって行くわ。そしてそれを指揮しているのが…」
アレアミアは一度口を閉ざし息を吐く。
「魔族。」
それを聞いてエルドとアルはため息をつく。
「それは…本当なのか…」
「ええ。でなければ私はここにいないわ。」
「だとしたら最悪…どうすんだエルド。お前が笑って否定するからなんの対策もしてないぞ。」
「僕に否定されたぐらいで対応策考えてないのは司令官としてどうなのよ?」
いつも通りの口喧嘩が始まるかと思ったがアレアミアが割って入る。
「だから私が来たのよ。」
エルドとアルがアレアミアを見る。
「人族に魔族を倒せるとは到底思えないわ。どんなに強くても一方的に蹂躙されて終わりよ。だから魔族とは私が戦います。その代わり周りにいるであろう魔物はお願いするわ。」
アレアミアの黒い瞳は冷静に5人を見据える。
「女神アレアミア様ご助力感謝します。ですが一つ聞かせてください。」
「何かしら。」
「アレアミア様は戦えるのですか?」
失礼な事を聞いているがあるの表情は真剣だ。それも無理はなかった。確かに女神は魔族と戦ったという伝承がある。同時に戦えない女神もいるという伝承も残っていた。あるはその辺りを危惧していた。
「もちろん。戦えなければここに来ないわ。だって私は…」
アレアミアはこれを話すかどうか少し考えた。
「そうね。どうせなら少し昔の話をしましょう。女神が魔族と戦い、魔王を討ち滅ぼした頃の話を。」
アレアミアは静かに語りだす。